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 全部、・・・・・・全部、ウタのおかげだ。ウタが、自分の身を顧みず力を使ってくれた。そのおかげで、じいちゃんに言えなかった言葉を伝えることも、じいちゃんの言葉を聞くこともできた。  葵が病院に着いた時、まだ息はあったが、話ができる状態ではなかった。その上、意識が戻る前に息を引き取ってしまっていた。 「じいちゃん・・・・・・、俺、ちゃんと前を向く。約束するよ」  いつまでも、過ぎ去ったことに囚われたままじゃダメなんだよな。  ここまで自分を育ててくれたじいちゃんの愛に応えるためにも。  きちんとじいちゃんを見送ろう。そして、ウタに会いにいく。会わせてもらえなくとも、何度だって通う。  葵はそう心に決め、頬を濡らしていた涙を拭い去った。
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