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 葬儀と火葬を済ませた。葬儀には、父も来たが父自身も気まずさがあるのか一言二言気まずげに話しただけだ。  葵は、そのことに心を動かすことはなかった。それは、祖父に言われた、“葵を大切にしない過去は捨ててしまいなさい。葵を今、大切にしてくれる人をきちんと見て、信じなさい。お前は、愛されているよ”という言葉のおかげだった。  自分を捨てた人間に心を囚われ、奪われてしまうのは勿体無い。そう気づくことができた。長く囚われ続けてしまったが、ようやく折り合いをつけることができそうだった。  きっとそれは、じいちゃんの言葉と、そのチャンスをくれたウタのおかげだ。  ようやく落ち着き、葵は神社に足を向けた。  神社の鳥居をくぐるが、いつもなら駆け寄ってくるウタの姿はない。  あの時現れた女の人に、許さないと言われた。もしかしたら、姿を現すことを許さていないのかもしれない。  それでも、ウタに会いたい。
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