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じゃあ、ついでに私も11
揉み合いをどう手伝ったら良いのかわからないので、話し合いで済むならそうすれば良いと思い、私は一歩下がっていた。
もしかしたらユウカの気が変わるかもしれないと考えもした。
彼を目の前にしたら、刺すことを躊躇うかもしれないと、そう考えもした。
「やめろ、おまえ、そこの、おまえも、やめさせろよ!」
「アンタが!!アンタが!!アンタさえいなければ私はこんなことにはならなかったっ!!」
「待て、ユウカ、何で、何があったんだよ、今日、機嫌良かっただろ!!」
「私は私は私は私は!!私は!!アンタがいれば!!機嫌がいいんだよ!!だから!!一生側にいろ!!愛してる!!憎くて!!たまんないくらい!!私はアンタを!!許さない!!」
そう、だから。
だからついでに私も。
じゃあ、ついでに私もそうしようと思った。
私はユウカの友人なので、ついでに彼を憎んでみることにしたのだ。
でもね、ユウカ、人間は金で買えるものなのだとでも思っていたの。
それは正解でもあり、間違いでもある。
人によるからだ、彼はそうじゃなかったのかもしれない、そうかもしれない、でもだとしたら足りなかっただけなのかもしれない。
私は、砂埃程度は持っている常識と言うやつで、一応ユウカの、スカーフの塊を握る方の手首を軽く握り締める。
エレベーターの角に追い詰められた彼は、気の違ってしまった女には慣れているのだろう。
自分に詰め寄って、喚き散らすユウカを宥めようとしているし、酷い言葉を投げかけたりもしない。
だってユウカは良い客だったのだから。
いつだって良い客だったのだから。
こんな姿を目の当たりにしたのははじめてで、なんとかなるだろうと思ったに違いない。
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