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第二話 訪れた男の子
月曜。
母ちゃんは土日祭日は仕事を休んだことはない、休みはいつも平日だった。だから平日が母さんと唯一ゆっくり話せる日ではあったから、別にそこは変に疑う事もなかった。
旅行は日曜の夕方から出かけ、明日帰ってくる予定だ。
中学三年生の俺は学校からの帰り、近所にあるスーパーによって買い物を済ませて来た。六月に入った、まだ梅雨じゃないけど前線が活発化、雨が続いて久しぶりに晴れた、こうなると、朝晩は少し冷える、そんな日はあったかいものがいい、今日はリクエストが入った。
「えーっと忘れ物はないよな」
リクエストはカレーライス、俺の食事当番だ。スーパーで足りない物を買いたしてきて、アパートの鍵をカバンから出そうとした。
古い、錆びて壊れかけの柱が並ぶ一階の奥、そこはこのアパート唯一の大きい部屋というか、二つ繋がっているだけなんだけど、そこが俺んちだ。
そのドアの前にごそごそと動く物体。
ゆっくりと顔をあげたのは男の子、弟マーの小さい時を思わせるそっくりな子がそこにいた。
「でかっ!」
まあ大きい方ではあるが。
その子は、何を思ったか、かまえてこういった。
「出たな巨人!」
はあ?
誰だ?このチビ?
そこには、まだ小学校に上がる前、黄色い帽子に、懐かしい保育園の青いスモック姿の男の子がいた。
「巨人は、ここにいるのか?」
またわけわかんねえことを。
もう一人出てきた、奥からひょこっと顔を出した、ランドセルを背負ってる。
「あ、帰って来た、えっと、あんた一番上?典弘(のりひろ)?」
兄貴?
「のりちゃんじゃないよ?」
「巨人だ!覚悟」
「うるさい」
何か紙を見ている。
「えーっと、どっちかな、千弘(ちひろ)?」
「うんそうだけど」
君は?
「俺?真(しん)こいつ怜(れい)」
は?どこの子だ?
えっと、お母さんかお父さんは?俺はそこにしゃがんで聞いた。
真は兄貴なのかその後ろにさっきまでの虚勢は何処へやら隠れてしまった。
「母ちゃんと父ちゃんは温泉」
「・・・ちゃん、おふろ!」
温泉?母ちゃんも行ってるけど?
エーッと・・・
「ここ、新しいうち?」
「中入いれろ!」
ハア?
「とうちゃん木村聿(のぶ)」
「のぶちゃん!」
「母ちゃん悦子」
「えっちゃん!」
はあ?
はあー?俺は声を上げてしまった。
向こうも連れ子がいた?
「そんなの聞いてねーし」
ごめんね、なんか話したような気はしてたんだけどね。
電話の向こう側、ごめんねを繰り返し、よろしくねと言う。もういい、ゆっくりして来いと電話を切った。
「なんだって?」
「話したような気がするんだと」
「ぼけてるんじゃね?」
「ボケ?」
「いいの?」
小さな子が俺たちの話に割って入ってくる。
怜はいくつ?マーが聞いた。
指を折り曲げたいのかそれが出来ない。
「三歳!」
俺たちが通っていた保育園に行っているそうだ、懐かしいと言う、マー。
「四歳だって教えただろ」
「そっか、四歳か、真は?」
「俺、七、一年生」
「そうなんだ」
聞くと、俺たちの通っていた小学校だ。
マーが相手をしている間に飯の準備、俺の足元にもからみついてくる、火を使ってるから危ない、あっちへ行っていろと言われるのがうれしいのか、なんだか笑顔だ。
口いっぱいに頬張るカレーライス、美味しいと言ってもらえたのはうれしかった。
兄貴が帰ってきた、遅くなったと、シーッというマー、二人のチビは奥に並んで寝ていた。
二人の子のことは聞いていた、二人だけで来るとは思わなかったという。
「え?連れ子?」
兄は、知り合いの子だからとしか聞いていないという。
どういうことだ?訳わかんねー。とにかく明日帰ってくるから詳しいことは明日聞こうという。疲れて帰ってきた兄貴には、それ以上突っ込めなかった。
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