第十九話 やってみよう

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第十九話 やってみよう

世界が変わった。 みんながそう思った。 感動で、声が出なくて、しばらくその水槽の前から動けないでいたんだ。 「ありがとうございました」 みんなでお礼、植物が決まったら連絡、それとスケッチも見てくれるそうだ。 若い店員さんは、この世界じゃ有名らしい、雑誌なんかにも出ているんだって後で聞いたんだ。 まあお礼と言っちゃあなんだが、みんなで、汚れた水槽の掃除なんか手伝って、それでレッスン代は十分と言ってもらった。 「楽しかったー」 「面白かったね」 「なあ、昼過ぎてるけどどうする?」 みんなが言う、ファミレスに行ってみたいと 行ったことないの? 「ない」 「私一回だけ言ったことある」 金持ちはそんなとこ行かねえよな。 俺がひき連れて、某ファミレスに入った。 「すっげー安、原価いくらだろう」「どこのものかな」そんなの考えたことねーよ。 「注文は」 これと渡した。 「タブレット、すごい、聞きに来ないんだ」 それもめずらしいのね。 「ドリンクバー行きたい」「俺もいく!」 楽しそうだねー。 注文されたのも続々と並ぶ。 「結構おいしい」「まずくはないな」 俺庶民、次元が違うよな。 「チー、また違うところ連れて行ってくれよ」 「俺、カラオケに行ってみたい」 行ったことねえのかよ?だって家にあるだろうという、やっぱり次元が違う。 回転すしや、某ハンバーガーチェーン店などなど、皆さん、坊ちゃん嬢ちゃんで、俺やっていけるのかな? 「カリオンのショッピングモールにもいろんなお店が入ってるよね、そこもいってみたいな」 「今度な」 先輩たちの親も病院の先生や弁護士、会社の社長や、とにかくセレブ級だ、もう聞いてるだけで腹いっぱいになる。 そこで驚愕の事実を知った。 「え?スマホ高校に入ってからなの?」 「必要?」 まあそう言われれば、みんなは小学校から私立だったりしてる子もいる訳で、俺と同じなのが妙に壺った。 「ゲーム?馬鹿じゃない?そんな時間もったいないわよ、なんの為にするの?」 「俺も時間もったいないな、ゲームするくらいなら、本や、資料集めに時間を使いたいよ」 へー、みんな忙しいんだな。 携帯ゲームなんかやってるのはロクなのいないし、話が合わないから始めから接触しないんだってさ。そうかー。なんて納得してしまった。 それでもゲーセンには一度は行ったことがあるらしい、女子は特にプリクラ、男子はもっぱらクレーンゲームと格闘ゲーム。 今は?と聞いたら、男子はドローン、女子はファッションなんかのほうに興味があるから別にー、なんだってさ。 帰りは、それぞれ、俺は電車。何人かと一緒に乗った、そこには初めての人も。 「あー、あるじゃん、パスモ、これだけでいいよ」 これをどうするの? 「かざすだけでいいよ、降りる時もかざせばかってに清算してくれる」 「切符買わなくていいんだ」 「これがない時は買わないとね」 無いと無賃乗車で捕まるからねなんて脅して、俺たちは、同じ駅まで行った、そこで解散となる。 じゃね、お疲れさま、バイバイ。 俺はさらにそこから二駅、そこで降りた。 駅前の書店から、見たことのある二人が出てきた。 「よ」 「お帰り」 「どこか出掛けてたの?」 ペットショップへ行ってきたことを話した。 林君と健、美術部で使うものを見に来たのだという。 ハンズの袋を持っていた。 林君も入った、帰宅部はやめたほうがいいというのと、部長さんが、席だけでもいいと言ってくれた。でもやり始めたらはまったそうだ。 なにを買って来たのか聞くと意外、折り紙だそうだ。 何をするのか聞いたら、紙に転写して、切り紙のように厚紙を切って、切ったところから染料が布にしみこむようにして布を染めるんだそうだ。折り紙を折るんじゃないのと聞いたらもちろん折るけれど、折り紙のガラを使うんだそうだ、今じゃいろんな和柄が出ていると見せてくれた。へー。 ろうけつ染めなんだって、むつかしそうだ。 「これ俺が作ったんだ」 「手ぬぐい?」 「スゲーだろ」 ストールのように首に巻いていた、汗を吸って冷たくなっていたけど、さすが芸能人、センスがいい似合ってる。 ガラは紙飛行機、いろんな紙飛行機があるんだすごい。 今から家に行くんだという、健は林君を部屋に入れてもいいか聞いてきた。一応、人は入れないことにしてあったけど、共通の友達だから構わないと言ったら嬉しそうだった。 部屋に案内すると、俺と健の方を見比べるリン。 「へー、二人で、スゲ、正反対」 「だろ、チーのほうでいいよな」 まったく 「俺、なんか持ってくから」 テーブルを出した。 「性格も正反対なの?」 「そうかもな、あいつは三人兄弟の末っ子だし、俺は五人兄弟の次男、男ばっかだし」 「それもすごいな」 きょろきょろとみているのが止まった、窓の外を見ている。 「後で泳ぐ?」 「プール?」 「うん、あそこ」 健の方にある、窓を開けた。キャーと言う歓声が聞こえてきた。 「あれ、弟?」 そうと言いながら、俺は着替えた。プールで遊ぶ三人を見てる林。 「うらやましいな」 「そうか、うっとうしいぞ」 「ジュースでいい?何話してるの?」 「兄弟の話」 健は姉の話を言い始めた、この容姿、お人形の代わりで、逃げ回るのに必死だったという。でも今じゃ懐かしい思いで、もうあの頃に帰ることはない。と少し寂しそうに話した。 リンも弟がいるそうだ、それ以上は話さなかった。 何を買ってきたのか聞いた。 「画材?」 「うん、ほらТシャツのロゴ、もっとちゃんとしたものを作ってみたいと思って」 「へー、油絵?」 「水彩」 林も、厚紙や、よく切れる、ペンタイプのカッターなんかを購入した。 美術部は何でもさせてくれるんだ。 「先輩は、ジャンルは問わないって、ただ文化祭の時作品だけは出してほしいって」 「園芸もじゃねえの、好きなことできるんじゃね?」 「好きなことじゃないかも、でもすんげー楽しかった」 三時、外は疲れたのか、下の畳の部屋で三人とじいちゃんがごろ寝、俺たちは、海パンをはいて、プールに飛び込んだ。 「いいなお前んちプールがあって」「作るまで十日もかかったぜ」 「作ったのか?」「池になってたのを直したんだよ、名残もあるぞ」 「池?」「そっちに鯉とかいるからな、取るの大変だったぜ」 まあ、学校のプールは使えないわけで、園芸部のみんなも来るし、プロポーションのいい先輩もいるしな。 「ぼん、きゅっ、ぼん、制服じゃわかんねからよ、それにこんなとこだから、むフフフ、ビキニで張り切っちゃうわけ」「お前、それ狙いかよ」 「男だ、どこが悪い」「俺も見に来ようかな」「来ればいいじゃん」 「そろそろコンサート始まるし」「芸能人も忙しいね」 まあな 夕飯もいっしょに食べ、弟たちに散々遊ばれて。そのあと、マネージャーさんが迎えに来て名残惜しそうにしてたけど、いつでも来いと言ってやったら嬉しそうに帰っていった。 楽しいことなんてあっという間で、夏休みも、お盆になり、みんなで墓参りに行った。 ちょっと忘れていた、この人は、俺の父さんじゃない、聿さんは、父ちゃんの前で、なにを思いながら手を合わせているんだろう。 「お兄ちゃんたちと仲良くやってます」 「毎日楽しいです」 母さんは真と怜を見ながら、少し、唇を震わせていた。 「父ちゃん、ばあちゃん、また春の彼岸な」 「牡丹餅持ってくるよ」 線香の濛々と上がる煙、手を合わせ、心の中で、父ちゃんに誤った。 ゴメン、俺、何にもできなくて、本当に、ゴメン。 みんなの心の中までは除くことはできない、でも、そう思っているのは俺だけで、兄ちゃんは、尚ちゃんと一緒になると、連れてきていた。 結婚は、まだだし、尚ちゃんも仕事をしているから、一年しっかり社会勉強させてほしいんだって、でも結局流されちゃうんだろうな。だって、一緒に住むみたいなんだもん。まあいいけどね。兄貴が幸せならさ。 俺は空を仰いだ、これから先、どうなるんだろう? 俺はどうしたいんだろう? ギュッと手を握られた、そこにいたのは真、彼も俺たちの事をどう見ているのかな? 目の前にいる、新しい家族…家族なんだろうな? 何とも言えない気持ちで、俺はまた空を仰いだ。
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