第四話  絶テー嫌だ!

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第四話  絶テー嫌だ!

そんなんで、チビが二人来ただけで大騒ぎのうちに夏休みに突入。俺たちはというか、マーが下の二人の面倒をよく見た。 学校のプールに真が行っている間、怜と子供用のプールであそんでやっている、まあいい関係なんじゃないかなと思った。 俺もまあ、お人よしだよな。 ダチはよく我慢ができるな、なんて言ってくれたけど、実際この先三年我慢すれば俺も就職して出ていけるしさなんて。みんなよく俺の素性をわかってくれているから、あんまり突っ込んでは来なかったけど、大変だなと言ってもらえた。 三人分増えた、食事も洗濯も、それほど苦にはならなかったし。 朝起きて、真のラジオ体操に付き添って、二人に三食飯を食べさせて、俺は暑いから市の大きな図書館へ行くというと、そこに二人もつれていけと言って、弁当をもって涼みに行ったりと、まあそれなりに楽しかった。 「ただいま」 「お帰り、飯だぞ」 何々という二人の前に出したのは、使い古した流れるそうめんのタワー。なぜか、やった―と喜ぶ真と怜、かわいい所がある。 俺やマーの作る飯も、文句言わずに食べる、美味しいと言ってくれると、なんかうれしかった。 お盆が近づいた月曜の朝、いつもの時間に目が覚めた。 珍しく母ちゃんが起きて、おにぎりを作っていた。 どっかいくの? 寝ぼけた目をこすりながら聞くと、嬉しそうにキッチンで鼻歌を歌う母ちゃんがこういった。 「行くよ!おうちが出来たの、やっとよ、なんかうれしくて」 その弾んだ声に、うぜーなと思いながらも、混雑するトイレにさっさと入り込んだ。そのうちみんながぞろぞろ起きだした。 「チー、お父さん起してきて」 父さん? その言葉に、変に反応してしまった。 「何してるの?」 「ああ、今行く」 母さんの部屋に男の人が寝ている、なんか変な感じだった。 「と」声が出なかった。 なんか後ろから、首を絞められているような感じで、むせ返りそうになる。 足でけってしまった。 「起きろ、朝!」 んー、もう少しと言う。 「おこしたからな」 俺は襖をぴしゃりと閉めた。 嫌だ! 俺は認めない! 父さん・・・“俺の父ちゃんはあの写真の人だ”と思ったら、なんか背中を冷たいものが走るような気がした。 弁当を持って、飲み物をいっぱい持って、日傘を指した母さんに、真と怜が手をつないで歩いている。その隣に、あの男がいる。 嫌だ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ! なんかめちゃくちゃ嫌だ! だいぶ歩いた、でもここは小、中学の学区の一番遠い所かもしれない。 俺の足取りは重かった、前を楽しそうに歩く母ちゃんの横顔がたまに見える、家族ってああいうもんなのかな? 前を歩く、マーが後ろを振り返り、俺のほうへ寄ってきて、手をつないだ。熱いとふり払うと照れてると言ってちゃかした。 「兄ちゃん遠いね」 「兄貴、こんな所から会社いけるの?」 「俺はこっちの方が駅に近いからいいけど、お前らは遠いかもな」 「…兄貴?」 なんだ?という。 ああやって手をつないで歩いたことあるか? 前を歩く人たち。 覚えてないかもしれないけど、ああして歩いたことはある、もう昔の事で、忘れてたよ。 何度も後ろを振り返る怜が走ってきた。 俺と兄貴の間に挟まると手を握ってきた。 マーの小さい時を思い出した、こんなに小さかったんだな。 小さな手がぎゅっと握り返す。そろそろだよと言う怜は、俺たちの手を放すとこんどはマーと手をつないでいた。 まあ、そんなもんだよな。 「かえってきた!」 「うち、うち!」 と喜ぶ二人。 「え?ここ?」 「古いだろ」 いや、いやそう云う事じゃなくて。 聿ちゃん、ここ家?と聞くマーの声 「そうだよ、ここが新しい、君たちの家だ」 足が前に進まない。 でーん‼ バーン! という吹き出しでも出てきそうな豪邸、どでかい古い木の門、ここはお城ですか?どう見ても、金持ちでしょう? 日本庭園がありますよ?池ですよ?池?奥には滝も見えてますよ? 「おい、あれ?」 「何?こえ―よ」 「何?何があるの?」 表札、木村の立派な文字、そのよこには聿さんの隣に母さんと俺たち三人の名前が入っていた。 「早く来なさい、案内するから」 母さん、あんた、どうしてこんな家に・・・ 「天然も、度が過ぎるよな」 「兄貴、俺、ついていけない」 「俺もだ」 入って又ビックリ、本当に、ここに住むんですか? 玄関だけで、どんだけ広いんだよ! ここだけで暮らせる、頭いてー! 平屋だけど、二階があるんだと言われた、いやいやそれは平屋ではありませんから。それに、これはリフォームとは言いません。 「建て替えだよな」 と言って辺りを見回す兄貴、いいのか?
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