第五話 ゴクリ

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第五話 ゴクリ

「兄貴ー、おれ、こえーよ」 部屋を案内するよと言われた、兄貴はスマホでさっきから何かを調べている。 「えっ?」 「どうしたの?」 立ち止まった兄貴がスマホをのぞいたまま驚いているのがわかる。 え?何、社長?ウソ?お爺さん、会長―? どういう事?俺はスマホを取り返し中を見た。 木村家は、スーパーはスーパーでも、超大手、カリオングループ!全国展開、しかも海外にまである。 そこの会長と社長? うっそー!!! ゴクリとのどがなった。まじ、まじ? 「兄貴、俺、おかしくなりそう」 「俺も、やっぱ、でて行くわ」 兄貴の部屋と言われたところに寝そべった、なぜか俺の部屋は兄貴の部屋より大きくて落ち着かない。今まで住んでいたアパートの全部の分の大きさがありそう、あいつらが狭いと言っていたのがわかる。 俺も一緒に行っていい?兄貴に言った。 「ダメ―!」 怜? 周りでばたばた走り回っていた怜が俺に抱き着いてきた。 「何で、何で、みんながいいの―!ダメ―、いっちゃ嫌だ~」 こんどは兄貴にしがみつく怜 「わかったよ、でもな怜」 兄貴はいずれは、結婚したりする、その時は家を出なきゃいけないと優しく云って聞かせた。 「結婚するの?」 「まだだけどな」 「じゃあ、怜がお嫁さんになる」 「それは無理だな」 「あきらめろ」 「じゃあ、チーと」 「それも無理だ」 「さあ、ご飯食べに行こうか」 みんなでご飯を食べる、まだ家具も何もない、ただ、だだっ広い家、部屋たち。 庭を見ながら、ご飯を食べた。 それを見ている俺がいる。 嫌だ! 何かが嫌だ。 どこかで俺が叫んでいるような気がした。 アパートを引き払う日が決まった。 また月曜日、なんか嫌だった、金さえあれば、俺はこのままここに居たいと思っているのに、それすらできない、中学生、高校に行っても無理か、そうだ、寮のある学校なら。 兄貴は金をためろという、自分で生活しようと思うなら、高校へ行ったら、バイトをすればいい。 でも、その後の生活は・・・それは俺を苦しめはじめることになる。 あるの日の暑い夕方、狭いアパートにその人たちはやってきた。 真と怜の祖父母が帰って来たのだ。 この人たちとあの家に住む。 一応形だけでもと三人並び、今までありがとうございましたと頭を下げた。 兄貴は覚えているといった、ばあちゃんが死んだとき、この人たちはいたという、俺は覚えてない。 「遠慮なんかしないでね、高校生、それじゃあ、机がいるわね」 いいです、小さなテーブルがあるんで、それにまだ高校自体どこを受けるか決まっていない、と言うか変えなきゃと思った、寮のある学校に。 「遠慮はいらん、そういえば聿が使っていた机は?」 「そんな古いの、ちゃんと新しいのを買いましょ、二つ、お兄ちゃんのと三ついるのね」 この二人も天然か? 「なんか、シンデレラになった気分」 「男だけどな」 夕飯時、兄ちゃんと言って流しにマーがやってきた。狭い流しに兄貴と三人並んで飯の支度。 「明日ね、スマホ買ってくれるんだって」 「ウソだろ?」 おばあちゃんが買ってくれるというのだ。 「よかったね、チーちゃん、念願のスマホだよ」 貧乏だと思っていた、いや、確かに貧乏だったはずだ、俺は家計のことは詳しくないけど、でも食べることに困ったことはないのか。この人たちのおかげで・・・か。 買えないと言われ、みんなが持っていても我慢していた、兄貴は仕事柄いるからと学校卒業してすぐに買ったんだよな。 食事ができた、俺たちが使っている小さなテーブルをつなげ広くした。そこにいっぱい並ぶいろんな食器、そろってなんかいない、今までこれでよかったし、困ったこともなかった。それを見る二人は、感心していた、真や怜にも、大きくなったら教えてやってほしいという。 「じゃあいいか」 パンと手を叩く兄貴。 「いただきます」 『いただきまーす』 喜んで食べてもらった。 子供たちの笑顔は宝物だと言う人たち。 俺は、この先なんか落とし穴がありそうで怖かった。 お盆の墓参りはキャンセル、必ず行くからと家の仏壇に花が添えられみんなが手を合わせた。 この人誰?怜が指さす。 俺たちの父ちゃんなんだよとマーが俺の隣でいうと「父ちゃんは聿ちゃんだよね?」といった。 「怜、君の父さんは聿ちゃんだけど、俺たち三人の父さんはこの人だったんだよ」 ふーん、と言うと、俺の横に座って手を合わせた。 「ありがとう」と頭を撫でたらえへへへと笑って、真のところへ行って真を引っ張ってきた。 「チーの父ちゃん」 「知ってるよ、怜いいか、この人がいなかったら、俺たちは兄ちゃんたちに会えなかったんだ、だから、この写真は大事なの」 へー真はわかってるんだ、それが何だかうれしかった。 「わかってるもん、ねー」 と俺に言うと、俺に膝の上に座った、真は俺の隣に座った。 手を合わせた。 目をつむり少し頭を下げた。 「ありがとうな」 「いつもみんなしてるもんね、これでいい?」 俺はそれに笑った。そして“いいよ”と真の頭も撫でてやった。 写真の中の父ちゃんはどう見ているのかな?
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