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第六話 父と呼べない
夏休みが終わり、家族は、それなりにそろうこととなった。
母ちゃんはもう少ししたら専業主婦になる、今は仕事にめどがついたからと、かなり早い時間で帰ってきていた。事務の仕事と言うのは、聿さんの会社だったのか。
マーと怜は甘えっぱなしだ。
真は案外、俺や兄貴のそばにいて、本を読んだりゲームをしたり、なんかいろんなことをしているのが好きみたいだ。
今日、俺たちは新居に来ている。
一度出した家具なんかが入り、アパートから持ってこなくてもいい位ものがある。だから俺たちは勉強道具だけ持ってきていた。
「おい、チー、暇か?」
「暇じゃありません、勉強しないと」
ココのおじいさんは俺を呼び出す、それも、庭木の手入れや、盆栽の手入れなんかを手伝わされる。これで四度目、まあいいけどさ。
「お前は筋がいい」
「そうですか?」
おじいさんたちが帰ってきてすぐ、俺は庭や作業場と呼ばれる場所で植物の世話をした、そして、これを作れといろんなことを手伝わされた、もちろん、マーも、真も怜も来て手伝いという邪魔をしていく。それを見るおじいさんおばあさんは嬉しそうだった。
「あのー」
「なんだ?」
聞いてもいいですか?と手を動かしながら訪ねた。
なんじゃ?というお爺さんも隣で手を動かしている。
「どうして母さんは、いままで聿さんと一緒にならなかったんですか?真や怜と一緒にいたくなかったのかな?」
おじいさんは古いくたびれた木の椅子に座りこういった。
俺たちのお母さんを取ってしまったこと、そっちの方が罪は重いといった、聿さんのわがままで、母さんを奪ってしまったこと、誠に申し訳ないと、おじいさんは頭を下げた。
母さんは、兄貴が二十歳になったらすべてを話そうと思っていた。でも、会社がここまで大きくなるとそうもいっていられなくなってしまったという。
聿さんの社長就任には、母さんが大きくかかわっている、会社にはもう無くてはならない人なんだそうだ、だから。
「さみしい思いをさせてすまなかった。もちろん、真や怜にもさびしい思いをさせた、でもこれからは、みんなが一緒に暮らせる、私たちもそんなに先はない、君たちにちゃんと教えるべきことを教えていかなければいけないんだ」
おじいさんは、手を動かしながら話してくれた。
母さんは俺たちの為にだけ働いていると思っていたけど、なんだかちょっとお爺さんの話を聞いて、聿さんやお爺さんおばあさん、それに会社、それに貢献してる母ちゃんってすごくね、なんて思ってしまったんだ。
でもやっぱりどこかで聿さんを認められなくて、父親っているもんなのかなと思ってみたりもしていたんだ。
「兄貴、いいかな?」
俺はおじいさんから聞いた話を兄貴に話した。
「二十歳まで待ったところで、何も変わるわけないのにな」
「でも、おじいさん、俺たちにちゃんと教えるべきことを教えるって言ってた」
「これからかー、なんか怖いなー」
「俺も、怖いよ」
だだっ広い部屋には、大きなベッドが置かれた。引っ越しは明日になる。でも俺たちは、この家で寝泊まりをする。もう、あのアパートに帰ることはない。
兄貴はどう思っているのだろう。
あのさと俺は兄貴に聞いてみた。
「まあな、父親なんていないもんだと思って育ってきているからな、今さら赤の他人が来ても、はいそうですかとはいかないさ。ただな、一つだけ、俺もこの年になって、ちゃんと尚のことも考え始めた時に、男女の仲って難しいなって思った」
「難しいの?」
「ああ、結婚て、二人でするもんじゃないんだって」
「二人じゃないの?」
兄貴は、そこには、親、兄弟、それに親戚と呼ばれる大勢の人が自分を取り巻いている、二人だけで結婚しても、いろんなときにみんなの手を借りなきゃいけない時があると言った。
「ふーん」
「母ちゃんは父ちゃんが死んで、三人の子供を抱えてどうしようって思ったはずなんだ、これからもっとお金がかかる、大きくなっていく、どうしようって、その時聿さんが現れ母ちゃんを支えた、だから母ちゃんは好きになって行った。初めて紹介された時、俺たちが反対した、二人は悩んで、こういう結果になっただけ。わかるか?」
なんとなくと答えた。
無理に父親なんて呼べなくて当たり前、でもいつか呼ぶ日が来るかもしれない、それは自分自身が先かもしれないし、それはその時にならないとわからないさ、と兄ちゃんは言ったんだ。
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