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絵本を読み終えると、それは本当に「おやすみなさい」の時間。
お母さんが、室内灯を光量の抑えた豆電球に切り替えると、私はへそを曲げた。毎晩まだまだお母さんと一緒にいたかった。それが毎回叶う訳はなくて、悲しくなって私は泣きべそをかきそうになる。年長になっても、そうしてお母さんを困らせていた。
すると、お母さんはそっと毛布を私の胸のあたりにかけ直し、頭を撫でながらきまってあの魔法をかけた。
「アイは私のすべてよ。だから、おやすみ」
世界で一番心が落ち着く、お母さんが私にだけかけられる魔法。
いつも私はそうして、ようやくの眠りについた。
◇
当時私は家族5人で、両親と母方の祖父母と一緒に暮らしていた。
祖父母は一人娘であるお母さんのことが心から大切で、祖父の定年退職の年に結婚した娘夫婦との同居を望み、父とお母さんはある理由からそれを受け入れた。
父は、研究者だった。
学生ながら将来を嘱望された若手研究者で、大学も父の未来に期待をかけていたようだ。
父とお母さんは大学で知り合い、祖父母にも内緒の交際の中で、私を妊娠した。私を産む決断をし学生結婚の道を選んだ若い二人は、経済的な理由もあり祖父母の提案を受け入れた。
私たちは、5人家族になった。
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