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5-1は、4にはならなかった。
祖父母は家を出て、もともと住んでいた地元に戻っていった。ひったくるようにお母さんの遺骨も遺品も、全てを持っていった。
父と私には何も話さず、塵も匂いも残さずに消えていった。
この家は、こんなに広かったのか。
まるで何もなかったような空間に、残ったのは父と私。
相葉家が求めて導いたその解は、愛と熱を失った、ただ無感情な世界だった。
◇
父は、研究者をやめた。
大学をやめ、近くの運送会社に就職した。
私の養育のために、手っ取り早く収入を確保しなければならなかったからだ。
父は私の小さいうちは朝夕に家にいて、慣れない家事をこなした。隣りの和田家の力も借りながら、私たちはなんとか生き続けた。
相変わらず、父とコミュニケーションは殆どとれなかったが、それが私たちの姿だった。
私が高学年になると、父は収入を増やすために大型の免許をとり長距離の仕事を始めた。
私がある程度は家の事をできるようになったタイミングだった。父が長い期間の地方への運行をしても、私は平気だった。慣れていくにつれ、蓮太の家族ともあまり関わらなくなった。
私は存在を薄く生きた。
無駄なエネルギーの消費を避けた。
動揺も歓喜もしない。
分かり合える友達もいないから、嘘はつかないが余計な本当のことも言わなくていいと思った。
信頼とか信用を持たないようにした。
絶対と呼べるものは無いのだから、検証で導き出せた小さな結論をなぞっていれば、それで私はよかった。
相葉アイの最適解は、私にしか導き出せないのだ。
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