【5÷1】

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「……除数1の割り算」 「え?」 「……だから、除数1の割り算と一緒」 「何?」  全然息の乱れない蓮太に、少しいじわる。  絶えだえの呼吸はなかなか治らない。 「はあ……変わらないよ? たぶん。除数1の割り算みたいなものでさ、計算してる風で結局答えは何も変わらないんだよ」  むっつりと答えるけれど、蓮太は私に向いて真面目な顔をする。 「そんなことないって。試したことあんのかよ」    検証、したことはないけど。  でもきっとそうだ。  疑問にも思ったことは……ない。   「……変な子、って言ったでしょ」 「あ」    これまでも、本当の意味で蓮太を正面から真っすぐ受け止めたことはない。不器用でも、いなして躱してよけてきた。純んだ気持ちは、私みたいな奴には概して優しくない。蓮太にあてられて、自分が粉々に壊れそうで、怖いんだ。    教室に着くまで、蓮太は「ごめん」とか「そんなつもりじゃ」なんて弁解していたけど、私は繰り返し「怒ってない」と答えるだけ。    今までと、私達は何も変わらない。    乗数1の掛け算。  シーラカンス。  as it is。    昔から、何も変わらないよ。  あの日よりもずっと前から、私は。  ◇          
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