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「……除数1の割り算」
「え?」
「……だから、除数1の割り算と一緒」
「何?」
全然息の乱れない蓮太に、少しいじわる。
絶えだえの呼吸はなかなか治らない。
「はあ……変わらないよ? たぶん。除数1の割り算みたいなものでさ、計算してる風で結局答えは何も変わらないんだよ」
むっつりと答えるけれど、蓮太は私に向いて真面目な顔をする。
「そんなことないって。試したことあんのかよ」
検証、したことはないけど。
でもきっとそうだ。
疑問にも思ったことは……ない。
「……変な子、って言ったでしょ」
「あ」
これまでも、本当の意味で蓮太を正面から真っすぐ受け止めたことはない。不器用でも、いなして躱してよけてきた。純んだ気持ちは、私みたいな奴には概して優しくない。蓮太にあてられて、自分が粉々に壊れそうで、怖いんだ。
教室に着くまで、蓮太は「ごめん」とか「そんなつもりじゃ」なんて弁解していたけど、私は繰り返し「怒ってない」と答えるだけ。
今までと、私達は何も変わらない。
乗数1の掛け算。
シーラカンス。
as it is。
昔から、何も変わらないよ。
あの日よりもずっと前から、私は。
◇
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