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   ◇  奇跡的に時間通りに終わった梶原先生の日本史の授業だったが、私はあんぱんを買い損ねた。廊下に出ようとした時、その廊下から真中くんが私をたずねてきたからだ。   「アイちゃん、こんにちは」 「……」 「約束は守れよカエデ」    真中くんの挨拶が終わる前に、教室の真逆から移動してきた蓮太が釘を刺した。「はやっ」と苦笑いしながら、真中くんが両掌を突き出す。どうどうどう。真中くんが、落ち着けという感じのジェスチャーで蓮太を宥めた。鼻息の荒い長身の蓮太を、上手に躱している。   「分かった分かった。じゃあ、これからは和田くんに話すよ。テスト終わるまでは。だから、アイちゃんは聞いてて?」 「何言ってんだお前」 「アイちゃんに話し掛けるなって約束はしたけど、アイちゃんに話を聞かすな、なんて約束はしてないよね僕たち」 「は?」 「してないよね?」 「……してないけど」    ふふん、と鼻を鳴らして、真中くんは昨日のように私の前の席に跨った。   「ところで和田くん、アイちゃんのテスト勉強のことなんだけどさ」    明らかに私の目を見て話し掛けてくる真中くんと、苦虫顔で真中くんを睨みつける蓮太。  地味な私の目の前で繰り広げられる豪華で珍しい光景に、教室中が見て見ぬふりのまま興味津々なのが手に取るように分かった。
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