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 クラスメイトから少し遅れてやわやわと立ち上がり、礼を交わす。私が頭を上げる前に、数名の男子が私の後ろを駆け抜け、学食販売の方に飛んでいった。「やべえぞ! 売り切れる!」そんな叫びも聞こえたが、残念ながらこの時間はもう間に合わない。比較的安価で人気のパン類は、5分と待たずにいつも完売だ。  これも検証済み。きっと彼らは、割高の惣菜パンか食堂の方に流れて行くことになるだろう。  私は席に座って教科書やノートを机にしまい、かわりに出した文庫本を開いた。  お昼、あんぱんが食べられないなら、まあそれでもいいかな。となると、余計なことはしない。んー昼寝かな。でも、昼休み早々に突っ伏して寝るのは悪目立ちだ。  一番気配を消せるのは、本を読むこと。教室内で絶妙な感情の熱と無関心さを醸す、最善の行為。結論にはまだ辿り着けない仮説だが、検証した結果で限りなく有力な推論、だと思う。 「アイ。昼は? 食わねえの?」  っと。こうなると話は別。
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