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◇
「アイ! お前何考えてるんだよ! 俺はあんな賭け認めないぞ!」
下校路の並木道を過ぎたところで、蓮太が私に話し掛けてきた。
『私と話さない協定』を見届けていた生徒がまわりにいないところを見計らって、私に問い詰めてくる。
「何って……認めてもらわなくても」
「カエデは今まで学年一位とったこともあるんだよ! なんであんなに簡単に条件飲んじゃうんんだよ……」
「まあ、別にいいかなって」
「よくねえよ! ……ああいうのはちゃんと考えて返事しないとダメだろ」
怒ったり落胆したり心配したり。外国の変面みたいに移り変わる蓮太の百面相は、家の前に着くまで続いた。
「簡単に決めた訳じゃないよ。蓮太と真中くんのおかげで、私にもやらなきゃいけないことがあるって、気付いたから」
「え?」
今朝の蓮太の言葉。
お昼の真中くんの言葉。
私の、確かめなければいけないこと。
いつまでも向き合わないわけにはいかない。
疑問が生じた。
私ならどうするべきか。決まってる。
「んー。それにさ、蓮太だっていつも学年上位じゃん」
「は?」
「だから、蓮太が真中くんより良い点数とればいいんじゃない?」
「……そんな簡単に行くかよ」
「自信、ないの?」
「そういうわけじゃないけど」
「話し掛けない協定があるんだし、私のこと気にしないで勉強すれば、蓮太なら真中くんにも勝てるんじゃない?」
「アイ、それって……」
四軒目と五軒目の間で、私は今日も蓮太に手を振る。
「私は、私で……」
二人で帰った下校路も、こうして一人になる。
そう。除数は「1」だ。何も変わらない。
でも、「1」が少しでもその値を狂わせたら、どうなる?
「私は私で、検証することが『二つ』できたから」
◇
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