【5÷1】

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   ◇       「アイ! お前何考えてるんだよ! 俺はあんな賭け認めないぞ!」    下校路の並木道を過ぎたところで、蓮太が私に話し掛けてきた。  『私と話さない協定』を見届けていた生徒がまわりにいないところを見計らって、私に問い詰めてくる。   「何って……認めてもらわなくても」 「カエデは今まで学年一位とったこともあるんだよ! なんであんなに簡単に条件飲んじゃうんんだよ……」 「まあ、別にいいかなって」 「よくねえよ! ……ああいうのはちゃんと考えて返事しないとダメだろ」    怒ったり落胆したり心配したり。外国の変面みたいに移り変わる蓮太の百面相は、家の前に着くまで続いた。   「簡単に決めた訳じゃないよ。蓮太と真中くんのおかげで、私にもやらなきゃいけないことがあるって、気付いたから」 「え?」    今朝の蓮太の言葉。  お昼の真中くんの言葉。  私の、確かめなければいけないこと。  いつまでも向き合わないわけにはいかない。  疑問が生じた。  私ならどうするべきか。決まってる。   「んー。それにさ、蓮太だっていつも学年上位じゃん」 「は?」 「だから、蓮太が真中くんより良い点数とればいいんじゃない?」 「……そんな簡単に行くかよ」 「自信、ないの?」 「そういうわけじゃないけど」 「話し掛けない協定があるんだし、私のこと気にしないで勉強すれば、蓮太なら真中くんにも勝てるんじゃない?」 「アイ、それって……」    四軒目と五軒目の間で、私は今日も蓮太に手を振る。 「私は、私で……」  二人で帰った下校路も、こうして一人になる。  そう。除数は「1」だ。何も変わらない。  でも、「1」が少しでもその値を狂わせたら、どうなる?   「私は私で、検証することが『二つ』できたから」          ◇    
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