1人が本棚に入れています
本棚に追加
第二話 ここはどこ?
目を開くと、真っ白な天井が見えた。どこかの建物の中に移動しているらしい。
もしかして、捕まった?
焦って体を動かそうとするけれど、全身に力が入らない。体を包むのはシーツの手触りだけで、多分拘束はされていないから、捕まったわけではないのかもしれないが、安心はできない。せめて他になにかあるかな、と思い、周りを見渡すと。
無表情でこちらを見る、片目を隠した女の子と目があった。
「わっ……」
女の子はそう声を上げ、私が寝かされているベッドの近くに置いてあったらしい椅子から立ち上がると、急いで部屋を出ていった。
ここは、どこなのか。あなたは誰なのか。今は何月何日なのか。聞きたいことは色々あったけれど、出ていかれたら尋ねようがない。うまく声が出ないため、呼び止めることもできない。さて、どうしたものか……。
そう考えていると、トントン、と扉がノックされ、その直後に開かれた。ノックの意味ないのでは……?と思うも、相手は私が声を出せないだろうと考えたのかもしれない、と思い直し、そのまま相手が入ってくるのを待った。
ドアを開いたのは、さっきの女の子。そして、その子とともに、また別の女の子が部屋に入ってきた。
眉のあたりで切りそろえられた前髪に、腰まで届く美しい黒髪。少し茶色に近いような赤色のリボンを髪に飾るその少女は、凛とした佇まいで……湯毛のたつ小さな土鍋をのせた盆を持っていた。
「え、えっと……あの、これ、怪しいものとか、入ってないから……とりあえず、食べて」
片目を隠した少女がお椀とスプーンを私に差し出しながら言った。中を見ると、卵がゆのようなものらしい。
途端にお腹がぐうう、と大きな音を立てる。そういえば、最後に食べ物を口にしたのはいつだろう。
「ありがとうございます」
かすれた声でお礼をいい、お椀と木のスプーンを受け取る。そして、中身をゆっくりと口に運んだ。
「美味しい……」
温かくて、優しい味で。私が久しく口にしていなかった、優しさのこもった手料理。
気がつくと、私はお椀の中身を空っぽにしていた。
「お、おかわり、いる……?」
尋ねる片目を隠した少女に「良ければ」というと、少女は口元に笑みを浮かべ、嬉しそうにおかわりをよそってくれた。土鍋を運んでいた少女はその姿を優しい目で見ていた。
やがて、食べ終わると、土鍋を運んでいた少女は、食器を持って立ち上がる。「あ、私が……」という片目隠れの少女に首を振り、そのまま出ていった。後に残った少女は椅子に座ってもじもじしていたが、やがて意を決したように言った。
「あの……えっと……あなたは、誰?どうして倒れていたの?」
「私は……嬉野希といいます。えっと、私を殺そうとする人から逃げていて、もう動けなくなって倒れてしまったんです。……あの、あなたは?さっきの女の子は?それに、ここはどこですか?」
質問をたくさんしてしまって、迷惑だったかな?そんなことを考えながら少女の言葉を待つと、少女はぼそぼそと語り始めた。
「私は……私の名前は、ない。言えないの。普段はふう、って呼ばれてる。お布団が好きだから。あの方は、中御門想様。中御門家の現当主。ここは想様がお住まいの麒麟屋敷。だから、怖い人は想様が追い返してくださるから心配しなくていい」
なかみかど、おもい。なかみかど、おもい……って、え!?
「ここ、中央地区なんですか!?し、しかも、中御門って、中御門って、あ、あの……!?」
私の様子に目を丸くしながらも、少女、もといふうさんは言った。
「うん、あの、中御門。五御門家の中心でありトップクラスの権力を持つ、あの中御門」
お父さん、お母さん、それに二人のお姉ちゃん。
私は、どうやらとんでもないところに来てしまったようです……。
最初のコメントを投稿しよう!