第一話 助けを求めて

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第一話 助けを求めて

はぁ、はぁ、はぁ…… もう何日、逃げ続けているのだろう。あれから何日、経ったのだろう。このまま逃げ続けたって、きっといつかは捕まってしまう。それなら、もう諦めてしまえばいいのではないか。 暗い方向へ傾きつつある思考を振り払うように、私は大きく首を振った。 決して捕まってはいけない。逃げ切らないと。お腹も空いたし、足は棒のようだし、眠気だって襲ってくる。それでも逃げないと。逃げて、誰かに助けを求めるんだ。だって私は、死んじゃいけないのだから。 この命は、お父さんと、お母さんと、二人の姉が繋いでくれたものだから。 きっかけは、ほんの数日前の出来事だった。家族で歩いて外食に行った帰り、立ち寄ったコンビニで殺人現場を目撃してしまった。私達家族に見られたと知ったその人は、私達を殺すべく追いかけてきた。 最初はお父さんだった。お父さんは、私たちが逃げられるようにと自ら武器も無しに立ち向かっていった。 次はお母さんだった。途中まで一緒に逃げていたが、いつの間にか増えていた追手を足止めするために飛び出していった。 その次は一番目の姉、夢だった。夢お姉ちゃんは私たちと夜が明けるまで逃げていたが、やがて迫ってきた追手から私達を逃がすために追手と対峙した。 二番目の姉、未来お姉ちゃんは追手を止めるために、落ちていた木の枝を持って戦おうとした。 私だけが生き残ってしまった。私が、何もできなかった私だけが。 今でも耳に残っている。家族の最後の言葉が。 「俺のことはおいて逃げろ!お前たちだけでも生き残れ!」 「私はいいから早く逃げて!三人で絶対生き延びて!」 「未来と希だけでも生きて!早く!逃げて!」 「希、絶対生きてね。絶対に捕まらないでね」 会いたい。みんなに会いたい。 もう私、疲れたよ。ひとりぼっちは寂しいよ。私なんかがこのまま逃げ切れるわけないよ。 涙が出てきそうで、でも出てこなかった。ときどき見かける川の水くらいしか飲んでないからだろう。森の中をずっと走り続けたから、もうここがどこなのかもわからない。時計も何も持ってないから何月何日の何時何分かもわからない。 お腹、空いた。疲れた。もう足が、動かない…… ふと、視界が急に明るくなった。……森が唐突に終わり、塀に囲まれた大きなお屋敷の前に出たからだ。 誰か、助けて……そう叫びたかったが、声は出なかった。伸ばした手から、踏み出した足から力が抜け、私はそのまま意識を失った。
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