(序)

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(序)

 桜毒(おうどく)  桜毒トレポネーマの感染によって生ずる性感染症である。症状は梅毒と同様であるが、全身に桜色の発疹が見られるのが特徴で、細菌名並びに病名はこれに由来する。感染後早くて数日、遅くとも半月以内という短期間にて抗体の産生と共に発症する。よって発症以前に感染の有無を発見即ち検査することは不可能であり、発症するや直ちに死に至る未だ治療法の存在しない不治の病である。世界のいずこかで既にワクチンが密かに開発されているとの未確認情報もあるにはあるが、真偽のほどは定かでない。  現在までに唯一日本でのみ発症が確認されており、第一の発生から既に十八年が経過、その間の発症累計は僅かに百例を数える程度である。検査が不可能であることから一時は日本国内、特に性風俗産業に混乱と打撃とを与えたが、近年発症数が減少しており、既に過去の性病として忘れ去られつつあった。
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