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9月1日
鮮やかなビタミンカラーには、夏の思い出が詰まっている。気温は真夏日を数えるので半袖シャツは入り用だけど、季節を主張する色は町で浮いていくだろう。Tシャツもブラウスも、秋らしい濃い色のものを手前に持ってくる。
今年も、誘えなかったなー。
手に取ったワンピースは、アルバイト代をこつこつ貯めて買った、初めての服だった。白い襟と薄い緑のギンガムチェックがクラシカルで、短い袖がポイントだった。ウエストでゴムが入った切り返しは女性らしいシルエットが出るのでお気に入り。丈の長いシャツワンピースはボタンが手間な分、清楚をアピールできた。
とっておきの勝負服だが、一度も着たことがない。
だって、タケルくんと出掛けなかったし!!!
仕方ない、仕方ないと自らに言い聞かせて、3年。年齢を選ぶデザインが、残り時間をカウントダウンしているように思える。
でも、今年はお互い受験生だったし...。
幼馴染―彼に言わせれば腐れ縁かもしれない―に、恋をしている。一目見たときから格好良かったのだ、仕方ない。中学生の時に父がこの家を構えた時には学校が遠くなるので猛反対したが、彼の家と同じ区角と知って舞い上がったのだ。
通う高校が違っても挨拶くらいならできると高をくくっていたのが、大外れ。相手が全寮制の高校に進学してしまえば、長期休暇にしかチャンスがない。
これでも道で会えば挨拶と近況報告はするのだから、嫌われてはいない、はずだ。
だとしても、今年はそれさえもなかったってどういうこと!?ノーチャンスは酷いよ...。
張り切った勝負服だが、土俵にさえ上がれていないのが現状だ。
現実を突きつけられ、打ちのめされる。3年連続3回目の、秋の入り口だった。
でも、このデザインなら大学生でも着られるはずだわ。ちょっと子どもっぽいかもしれないけれど、いやらしさはないもの。
傷心を自分で慰めながら、クローゼットを閉めた。
「何度言わせるのー、ご飯よー」
「はあい」
階下からの声に返事をして、部屋を後にする。夕食のレタスを見てもワンピースは思い出さないだろうし、朝食のキウイも美味しくお腹に放り込んでしまうだろう。
でも、買い物の帰りにタケルと会ったという母の話には、口の中が酸っぱくなる。
キウイの日
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