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1 ①
ふと、意識が浮上する感覚がした。目が覚めた、という事だろう。
だが目覚めたという事に驚く。何故なら俺はもう目覚めるはずがないからだ。
上体だけを起こし、ぐっぱぐっぱと手を握っては開きそのいつも通りの感覚に驚く。そしてきょろきょろと辺りを見回してみた。
あるのは石。無数の石と一面に咲く彼岸花。それと眼前に広がる川のみ。
川はキラキラと輝き美しくとてもいい物のように思えて、こちらへおいでと誘っているように感じた。
ごくりと喉が鳴り、気が付くとあちこちからバシャリバシャリと沢山の人が川へと入って行くのが見えた。まるで集団催眠のような何かに操られているかのような異様な光景だった。
俺は助けなきゃと思い手を伸ばすが、掴もうとした腕をするりとすり抜けてしまった。
「――え?」
思わず驚きの声を上げるが、その先にはもっと驚く事が――。
川へと入って行った人の姿がぱぁああっと輝き丸い珠へと姿を変えて、桃太郎の桃よろしくどんぶらこっこと流れて行ったのだ。沢山の珠がある一点を目指しているようだった。
何が起こっているんだ……っ!? 訳も分からず俺は自身も川へと入って行きたくなる衝動に駆られるが、奥歯を音がするくらい強く噛みしめて耐えた。
みんなと同じように川へ入る事が正解なのか、こちらに残る事が正解なのかどちらともが不正解かもしれないし、何も分からない。分からないのだから動けない。
俺自身がどうなったとしてもいいが、これ以上きみを悲しませる事になるのだけはいただけない。俺はもう充分過ぎる程きみを悲しませてしまっているのだから――。
俺はきみの傍にはいられない。きみの元へは戻れないのだ。
俺は――――もう……。
生きてはいないのだから。
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