第一話 桃の節句

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第一話 桃の節句

明後日25日から一月三日までが冬休みとなる、なんか、公務員みたいだな、なんて、それでも午前中で終わる授業、生徒と外の車の列を妙な感じで俺は見ていたんだ。 短い冬休みはあっという間で、クリスマスには、健の所にはカードが送られてきた、上限があるけど、好きな物が買えるとうれしそうだ。 俺と兄貴も同じカードだった、物より現金、それはこれから起こる前触れを示唆していたんだ。 なんだか正月も、今までとは違い、すごいお客さんが多くて、あのデカい玄関には靴が並ぶなんてこともなかったのに、今はあふれるほど並んでいる。間違えそうなくらい同じ黒い靴、中に紙きれ、名刺が入ってる、賢いななんてそれを見ていた。 兄ちゃんも尚ちゃんと忙しそう。俺たちも、尚ちゃんのおじさんおばさんにちょっとしか挨拶できなくて、下三人はお年玉をもらっていた、俺はなし、まあいいか、お金もかかるしな。 でも、なんか今までとはるかに違うのをいただくこととなる、お年玉の入れ物のせいか、重さのせいか?何せポチ袋じゃない、のし袋、ご祝儀か? 俺は聿さんにくっついてばかりだ、息子と言って紹介されるのも慣れた。 明日、兄ちゃんと聿さんは、今度は逆のことをするらしい、聿さんには、クリスマスの時の名刺は見せてある、会社でつながりのある人、特に、印象的な親戚三人は俺も知っている人と会社だったから。 さすがに、あの和菓子屋の先輩からは、正月のお菓子用にとものすごい量のお菓子を持って年末にあいさつに来られた時はびっくりさせられたけど、そのあとも、年末の挨拶だと言って次々こられたのには参ったー。 それと、あとで兄ちゃんに聞くことになるんだけどあの人、佐藤晴彦、彼と会ったんだって、その話はまた後にしよう。 冬休みが終わり、俺たち部活も静かになるなんて思いきや、もう春の準備が始まるんだそうだ。 「何するんですか?」 卒業式と、入学式に使う花の準備だそうだ。 今日はとることはしない、あくまでも三月のその時に合わせて花が咲くようにしている物だから、ある程度のめどをつけておくんだって。 ビニルハウスの中は、甘い花の匂いでものすごい。蜂も飛んでいる。 蜂?もしかして、みーっけた。 「何これ?」 「知らないの?はちみつ取るスバコだよ、ほら、蜂が入っていくだろ」 本当だ、なんて覗いてみてる。 「食ってみるか?」 「いいんですか?」 食べれるの?なんて聞いてきたのは一年の女子二人。 伝助さんが箱を開けてくれた、生のはちみつはおなかを壊したりもするそうだから、少しだけなと言って、みんなたらたらと落ちる蜜をいただきました。 そして、遊びに来ていた三年生。思い出いっぱい先輩たちとはここで一度お別れ、後会うのは卒業式の練習と卒業式だけとなる。俺、先輩たちに抱き着いちゃったよー。 そして二月、寒い寒い最後の日。 今日は部室で一年間の総括と、これからの予定、そして部長を決める日です。 「では次期部長は、阿部君で決定しました」 ぱちぱちと拍手。 副部長は里田さんになった。 夏野菜の種まきが始まる。放課後は準備して、ハウスに集合。 それまでは、花の準備に、伝助さんの作業小屋に行くこととなる。 今日は変わったものを取りに、みんなで、車に乗り込んだ。 「どこに行くんですか?」 「三月三日は何の日だ」 「桃の節句、もしかして、桃の木を取りに行くんですか?」 「正解」 「木?」 「木だろうな?」 そう、俺たちは、普通に枝を広げている木を想像していた、でも、ここは大学生も来る園芸科、大きな建物に入ると、声をあげた。 「甘ーい」 「いい匂い」 「果物の桃の匂いだ」 そう、果物の桃の木から延びる、不要な枝を選定して、それを売るだけの事なんだけどね。ここにあるのは、品種改良をしたり、固有種を保存したりと、いろんな果物があるんだ。 それでも結構大変だ、俺たち男は、はしごで高いところを中心に、腕は重いし、首は疲れるし、普段使わない筋肉だからしんどい。 支持してくれる枝を切って行く。 女子は毛虫にキャーキャーと、それに。 メ― ん? メェーー ヤギ? 「どっかにいる?」 「ヤギだよね」 「来て、いる」 そこに集まる一年。 「あかちゃん?」「ちいせー」「おやどこ?」「見ないよね」 「誰だよ引っ張るの」 「引っ張って…あ」 「チー、後ろ」 「何?うわー、食うな」 「食べてないわよね」 「こえー、目がこえーよ」 親がいた、ジャージに食いつかれたんだ。みんなに笑われた。 選定して切ったものを植えると、木は短く、花専用の木になるらしい。シュートという上に向いて生える枝がある、それを女子たちは切っていく。枝をまとめ、車に積んで、学校のそばの作業場へ、少しというか、結構な量をいただいてきた、高校と大学、校長室、理事長室、応接室に飾る分、残りは?売るんだそうだ、花の市場に持って行くんだって、その梱包作業も手伝った。それと生徒会室にも少し持っていくらしい。 「どこに持ってくの?」 「茶道部、いけてくれるから」 へーなんて言いながら、バケツに枝を刺したものをもっていく。 お茶室は、理事長室の奥にあるそうだ。
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