第二十二話 父と呼んだ日

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「いやー、弟が浴衣の売り場任せられたと聞いた時はびっくりしたけどなー」 「ん、ん、うるさくてごめんなさいね、千歳です、管理部の部長させていただいてます」 「この四人は社長の悪友でーす」 「悪友ゆうな、一こしたってだけでお前も仲間やからな」 「まったく、秘書ったって、こんなむっつり千弘君だっていやよね」 「ウッせーよ」 へー、聿さんの秘書、高田さんもそうなんだ。 「まあ、先に話しましょ、まだ夜は長いし」 「そや、そや」 「んで、どうする?」 「千歳、君には頼みたいと思ってる」「へへーん、おさきにー」 「それと、旦那さんも頼めるか?」「ラジャー」 あーずるいとか言ってる、仲いいんだな。 「穂高と近藤には、パリ支店に行ってほしい」〈パリ、何で?〉 「もしかして、貸衣装か」 「ああ、そろそろ時期だろ」 「あーあれ?どうするの?」 「今、いろんなところをあたってる、千弘、ウエディングバザールの事話してやってくれ」 「あ、はい」 今、リサイクルショップや、貸衣装店の在庫で売れない商品の買い付けを行(おこな)ってます、ほとんど二束三文なんでいいと思ってたんですが・・・ 「が?」 「何か問題あるのか?」 日本人小さいんです、それで、サイズの直しとかできるものはやってるんですが・・・ 「グラマラスってこと?」 それもあります、日本人はA、Bカップが主流で、向こうはEか、Fなもんで。 〈胸ないもんなー〉 「そんな言い方あるか―」パカンと頭叩かれてる。だいじょうぶか? アメリカのリサイクルショップと、アメリカ店舗でも集めてるんで何とか。 「まったく、誰が、ウエディングドレスの争奪戦はじめたんだかな」 「安くても着れなきゃ意味ねえのにな」 「それでも安けりゃ買うんじゃない」 「貸衣装だぞ、借りた方がいいのにな」 「それでも、千円ぐらいのが、一万円になればいいと思いますけど」 「たった二百枚ぐらいでしょ、何で私たちなのよ?」 「二百?何それ?」と俺は父さんの方を振り返った。 「おい、まさか集めてないのか?」 「・・・いえ、俺には一万点集めろって、とうさーん!」 すまんと手を合わせている人がいる。 「マジ?」 「お前息子に悪行働かせてるんじゃねえだろうな」 「いやー、集められるなら集めておいた方がいいかなーって」 「また、聿の収集癖かよ、んで、今どれくらい集まってる」 「半分ぐらいです、でも、まだほかの地域のは聞いてないから」 「五千かよ!ちょい、それ見せろ、なんだよこれ、カクテルドレスとかも、まったく」 「まあいろいろあった方が楽しいだろ」 「千弘、こんなオヤジだけど頼むな」 「あんたが頼りよ」 頭を撫でられた、なんか変な感じ。 「もう、次!尾崎、お前はいつもと同じ!」 「まったく、別に金取るようにするか」 「それこそ、未来の社長に頼んでみたら」 「そうだ、俺さ、語学担当、決まればすぐに、英会話なんか始めるんだけどさ、給料変わんねえし、少し上げてくれねえかな」 「あげるのは簡単ですけど」 「やったね、それじゃあ」 「俺に、利益有ります?」 「は?」 「メリットあるのかな?」 「やられた!」 「さすが―」 「一本取られたわね」 大笑いの四人、そして、ホテルの人が来た、時間なので空けてほしいという。 「よっしゃ、行こう」尾崎さんに肩を掴まれた。 「腹減ってんだろ」「味噌ラーメンがいいです、だもんな」 後の四人も待たせてある、食事に行こうと、俺たちは荷物をフロントに預け、夜の札幌へと繰り出した。 今北海道も大きな街以外は集客率が上がらなくなり、作りすぎた店舗の見極めをしているんだそうだ、そして、整理が終わり次第札幌郊外に大きな店舗を作るのが決まっているのだそうだ、目の前にいる四人の店長さんたちは、売り上げを伸ばしている人たち、だからこそ次を任せられるのだという。 さっき握手をした人、彼はなんと、鈴木部長の友人なんだそうだ、面白い子がいると言われてぜひ会いたいと思っていたと言っていただいた。 なんだか照れるなー。 大人の付き合い、先に軽く飲みに行くと入ったところでカニを食べた、やっぱりうまい。 「百貨店、叔父さんたちの時はデパートって言うところは夢の店だったんだ、でも今はどんどん、中身がどこに行っても同じになってきてるように思えてね」 「今の会長から社長に変わる時にね、僕と一緒に、夢をかなえてくれる人はどんどん出世させます、給与も与えます、実現させるために力を貸してくださいってね」 「あれはいつだ?」 「十年前か」 十年前、母さんと・・・。 「でもすごかったよな、他の会社は倒れていくのに、右肩上がりだ」 「海外も撤退してるのに維持してるし」 「まあ失敗もあったけどな」 「仕方がないさ、でもな千弘、この人たちは、口ばっかりじゃなく実績を作ってきた人たちなんだ、何千人ている社員一人、一人みるのは大変だけど、向こうからアクションをかけてくればそれは目立って見えるだろ、彼らはそれをしてきた」 「だから今こうしているんだ」 それでも大変になりそうですけどね。 「あとは誰?」 「大阪から二人」 キッシンジャーとマリリンさんですね。 「あたり」 「あの二人は絶対やってくれるわ」 「千弘君、君がいなかったら、半年以上もの間、社長の席なんか開けるようなバカはいなかっただろうな」 バカは余計だ。へーいいな、友達。 「でも、彼は、社長の夢を引き継ぐわ」 「千弘君、これからも手伝ってくれるよね」 みんなが俺を見た。 「・・・はあ、断ることもできなさそう」 「そうそう、何事もチャレンジ」 「よっしゃー、社長のバックアップは強固なものになったぜ、それじゃあ、社長代理として、これからのカリオンの発展と、千弘君の今後の成長に、乾杯」 「乾杯、よろしくな千弘」とお酒でほろ酔いの隣の聿さんとグラスを合わせた。 うんと言ってる、俺がいた。 「キャー、サインください」「俺?」「違います―、千弘さんです~」 外に出ると、若い女性に囲まれてしまった。サインと握手。〈ありがとう〉 「叔父さんはダメなのよ、ねー」「叔父さんだって、まだこれからだ」 そんなこんなでみんながあるところで足を止めた。 「これが有名な時計台です」 「え?これ?」〈でっかいの想像してただろ〉〈みんなそうなんだよなー〉 時計台の前で写真を撮った…みんなは親子だという、けど、どこか冷めてる自分がいて。 ギュッと肩を握られて、ああ、そうか俺、生きてるんだ、何故だか時計台を見てそう思ったんだ。 足元を見た、黒い革靴をとんと蹴り上げた。 俺、今ここに立っている。そう思ったらおかしくなってきた。 「どうした?」 「父さん!」 「ん?」 「ラーメン食べたい!」 よし行こう。うまい所に連れてってやる。 俺は初めて、聿さんの事を素直に父さんと呼べたような気がしたんだ。 今まで訂正するのが面倒くさいのと、会社の面目もあって呼んでいたけど。 今日は違った。 素直にそう呼べたんだ。 父さんの友人と会社の人に連れられて夜の札幌を楽しんだんだ。
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