第二十四話 ハンマープライス

1/2
前へ
/55ページ
次へ

第二十四話 ハンマープライス

そして・・・。 「豊田、木村、頼む」 「お願いします」 もう大会のエントリーはしたんだそうだ、作品は? 「お前の松、出した、豊田のはいけばな」 「ウソ、マジで」 「どれですか?」 写真を覗き込んだ。 作業場で取った物だという、いつの間に。 「それで…」「実は…」 まさか? 「通っちゃいました!」 「二人ともお願いだー、エントリーできたんだ頼むよー!」 まじで?忙しすぎて、見に行く暇もなかった、いつの間にか終わっていた?それじゃあ全国大会?うん、うんと首を振る、部長と副部長 「大会いつ?」 「審査は?」 「今度の日曜?」 「ウソ―、じゃあ、搬入、は金曜?無理、俺無理」 「こっちでするからさ、豊田はなんとか、当日だけでも頼む」 「俺はいいけど、お前平気?」 材料集めないと。そこは任せろと先輩は言ってくれた。 とりあえず、スケジュール調整しないと、作業場から運び出さなきゃ。 「ああ、それと、これ、もう一点」 何?何?とのぞいた。 「先輩、これはダメでしょ」 「いいんだ、これは特別枠、大きいものも去年の上位校は出せるんだ」 そこには爺ちゃんと作った、黒松。まだ中途半端だし、でっかい石ぶら下がったまんまだし。 でもいいのか?じいちゃんからはオッケーをもらったという部長はピースサイン。マジでいいのかなー、あの時、お前ならいくらで売るといった物だ。オッケーってことは売っていいってことだもんな。 ハア、大きなため息が出た。 「手入れすればいけそうだな」 「先生、行けるかな」 「行けんじゃね、その後のオークション、どうなるか楽しみだけどな」 「オー、どうなるんだ、今年からだろう?ラブピースの慈善事業参加」 「あるんだ、見ろ、海外組は出すことが決まってる」 「すげーちゃんとしたハンマープライスするんだね」 「俺たちも見れる?」これだけ大きな会場だから見学はできるさ。 と先生は言ったものの、どうなる事か。 学校の軽トラックが来た、一度学校に運ばずにじかに持って行くことになった。 「いいですか?」 「あげるぞ!」 オーライ。オーライの掛け声とともに、重機で釣り上げられた、盆栽、そこまでは大きくはないが、作業場からならこの方がいい。 「脚立いるか?」〈ほしいです〉 「こっちの水盤の方がよくない?」 「先輩のは?」 「ねえ、バスケット、もう一個何処?」 なんかもうバタバタ。 「みんな落ち着け!ここで焦ってもしょうがない、深呼吸して、落ち着いて作業しろ!」 顧問の一声。みんなが大きな声で、はい、と返事をした。 そして各学校の生徒たち、隣では大掛かりな物を作っているからトンカチなんかの音もする。 「先生、どうだろう?」 こっちへ来てみろという、離れてみてどうだ? 「右の方が、なんか?」〈ちょっとずれてみろ、ほら、少しだが、膨らんでないか?〉 指摘されてわかる、切り方なんだろうか、爺ちゃんの手の入れたところと微妙に違う。 はさみの入れ方、切るのも整えるのも、ほんのちょっと、松の葉、一枚、とげのような小さな枝一本に慎重にはさみを入れる。 皆はまだ作業をしているが、大きい盆栽は動かすだけで大変だから、先に置いてもらった。 又先生のいる位置に立つ、少し回りながら全体を見る。 「いいんじゃないか?」 「じゃあ外します」 それを多くの人が見ていた。 石を持ってもらい、外した。 下がってみる。 「五百万はほしいな」 「それぐらいじゃなきゃ、鉢が可哀想だ」 「入れもんかよ」 「ああ、松も可哀想だな」 「俺はどうでもいいんだ」 みんなが笑っていた。 「それじゃあ、本選、頑張ってください、応援してるよ」 軽トラを貸してくれた山下さんが帰る。 皆はいたずらされないように最後まで見張るんだと、準備をする組と見張りをする人たちに別れた。 俺はぎりぎりまでクロマツにかかって作業をしていた。 そして夜。 「すみません、皆さんよろしくお願いします」 俺は会社を休むため、いろんなことを社長や、それぞれの担当者に話して回ったんだ。 そして、休む分言い渡された物を片付けなきゃ、忙しいよ! 「それでは、第二回戦、スタート」 「○○学校、頑張れ―!」ほかの学校の応援に負けじと声を出す。今回の御題、浦島太郎。 純和風、各学校もいろいろ作って飾り立てるが。うちは正攻法、カナ?玉手箱だけは作ったけど…さあどうなるかな? 去年の俺たちのまねをする学校ばかりとなった、スタートは一緒だ。 夏、金魚さんでのレクチャーの時に、その話をした。 「それじゃあ、今回は、中身だな」 「やっぱり、植物ですか?」 「いや、レイアウト、絵を何枚も書いた方がいい」 去年の御題、人魚姫、おもちゃのお城を用意した組もあった。 「どうだろうか、ここで本来の目的を果たしてみたら」 「本来の目的ってなんですか?」 一年が聞く。 「周りを見て、どう?何か感じない?」 周りには色とりどりの魚が気持ちよさそうに泳いでいる。 「魚ですか?」 そう言う事、と言って、今作った中にグッピーを入れた。 ワー 「そうか、別に魚を入れるのに規定はない」 でもいいのかな? 植物だけではない、石や流木、作り物を入れたりもするんだ。大会本部に聞いてみよう。 オッケーはもらっていた。 最後の最後、そこまで、いれるものは隠しておくんだ。 「十五分前」 「落ち着け―!」 【せーの、深呼吸!】 三人が、手を一瞬置き、深呼吸したのがわかった。 俺たちは大きな声を出した。 「よーし!!!」 動きが断然変わった、今回は、部長の阿部先輩、美香は去年も出たことで採用され、もう一人は、なんと一年の鈴木、やっぱりあいつも持ってるわなんて言われたけど。 男性が二人、今回もちょっと重いものが多いということもあった。それは、岩なんかで海の底の雰囲気を出したからだ。 手が上がった。 「よーし!!!」 わーという歓声が上がる。 指定された場所に置き、ライト、バブル装置にスイッチが入る。 部長が前に行き、水槽の前に立って全体を見た。 頷いた。 最後に入れた物は。 えび? 「魚じゃなかったんですか?」 「こっちの方が海っぽいだろ」 「淡水で、タイやヒラメもないしな」 そりゃそうだけど、透明な小さなエビが、ここからじゃ見えないけど入れられた。 手が上がった。 ウオーという歓声が上がった。 時間はまだあるが、タイムトライアル、手が上がった時点で、審査委員がなかをのぞき手が上がると時間が止まり合否がきまる。 すぐに審査委員の手が上がった。 キャー! ヤッター! 俺たちの歓声は、三人にも届いた。ガッツポーズ。 みんなが飛び上がって喜んだ。 十校のうち、七校が合格、すべては最後の審査発表を待つこととなる。 四十五校中、合格したのは、約半分の二十校、審査が始まった。 みんなが願う、緊張が走る。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加