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第二十四話 ハンマープライス
そして・・・。
「豊田、木村、頼む」
「お願いします」
もう大会のエントリーはしたんだそうだ、作品は?
「お前の松、出した、豊田のはいけばな」
「ウソ、マジで」
「どれですか?」
写真を覗き込んだ。
作業場で取った物だという、いつの間に。
「それで…」「実は…」
まさか?
「通っちゃいました!」
「二人ともお願いだー、エントリーできたんだ頼むよー!」
まじで?忙しすぎて、見に行く暇もなかった、いつの間にか終わっていた?それじゃあ全国大会?うん、うんと首を振る、部長と副部長
「大会いつ?」
「審査は?」
「今度の日曜?」
「ウソ―、じゃあ、搬入、は金曜?無理、俺無理」
「こっちでするからさ、豊田はなんとか、当日だけでも頼む」
「俺はいいけど、お前平気?」
材料集めないと。そこは任せろと先輩は言ってくれた。
とりあえず、スケジュール調整しないと、作業場から運び出さなきゃ。
「ああ、それと、これ、もう一点」
何?何?とのぞいた。
「先輩、これはダメでしょ」
「いいんだ、これは特別枠、大きいものも去年の上位校は出せるんだ」
そこには爺ちゃんと作った、黒松。まだ中途半端だし、でっかい石ぶら下がったまんまだし。
でもいいのか?じいちゃんからはオッケーをもらったという部長はピースサイン。マジでいいのかなー、あの時、お前ならいくらで売るといった物だ。オッケーってことは売っていいってことだもんな。
ハア、大きなため息が出た。
「手入れすればいけそうだな」
「先生、行けるかな」
「行けんじゃね、その後のオークション、どうなるか楽しみだけどな」
「オー、どうなるんだ、今年からだろう?ラブピースの慈善事業参加」
「あるんだ、見ろ、海外組は出すことが決まってる」
「すげーちゃんとしたハンマープライスするんだね」
「俺たちも見れる?」これだけ大きな会場だから見学はできるさ。
と先生は言ったものの、どうなる事か。
学校の軽トラックが来た、一度学校に運ばずにじかに持って行くことになった。
「いいですか?」
「あげるぞ!」
オーライ。オーライの掛け声とともに、重機で釣り上げられた、盆栽、そこまでは大きくはないが、作業場からならこの方がいい。
「脚立いるか?」〈ほしいです〉
「こっちの水盤の方がよくない?」
「先輩のは?」
「ねえ、バスケット、もう一個何処?」
なんかもうバタバタ。
「みんな落ち着け!ここで焦ってもしょうがない、深呼吸して、落ち着いて作業しろ!」
顧問の一声。みんなが大きな声で、はい、と返事をした。
そして各学校の生徒たち、隣では大掛かりな物を作っているからトンカチなんかの音もする。
「先生、どうだろう?」
こっちへ来てみろという、離れてみてどうだ?
「右の方が、なんか?」〈ちょっとずれてみろ、ほら、少しだが、膨らんでないか?〉
指摘されてわかる、切り方なんだろうか、爺ちゃんの手の入れたところと微妙に違う。
はさみの入れ方、切るのも整えるのも、ほんのちょっと、松の葉、一枚、とげのような小さな枝一本に慎重にはさみを入れる。
皆はまだ作業をしているが、大きい盆栽は動かすだけで大変だから、先に置いてもらった。
又先生のいる位置に立つ、少し回りながら全体を見る。
「いいんじゃないか?」
「じゃあ外します」
それを多くの人が見ていた。
石を持ってもらい、外した。
下がってみる。
「五百万はほしいな」
「それぐらいじゃなきゃ、鉢が可哀想だ」
「入れもんかよ」
「ああ、松も可哀想だな」
「俺はどうでもいいんだ」
みんなが笑っていた。
「それじゃあ、本選、頑張ってください、応援してるよ」
軽トラを貸してくれた山下さんが帰る。
皆はいたずらされないように最後まで見張るんだと、準備をする組と見張りをする人たちに別れた。
俺はぎりぎりまでクロマツにかかって作業をしていた。
そして夜。
「すみません、皆さんよろしくお願いします」
俺は会社を休むため、いろんなことを社長や、それぞれの担当者に話して回ったんだ。
そして、休む分言い渡された物を片付けなきゃ、忙しいよ!
「それでは、第二回戦、スタート」
「○○学校、頑張れ―!」ほかの学校の応援に負けじと声を出す。今回の御題、浦島太郎。
純和風、各学校もいろいろ作って飾り立てるが。うちは正攻法、カナ?玉手箱だけは作ったけど…さあどうなるかな?
去年の俺たちのまねをする学校ばかりとなった、スタートは一緒だ。
夏、金魚さんでのレクチャーの時に、その話をした。
「それじゃあ、今回は、中身だな」
「やっぱり、植物ですか?」
「いや、レイアウト、絵を何枚も書いた方がいい」
去年の御題、人魚姫、おもちゃのお城を用意した組もあった。
「どうだろうか、ここで本来の目的を果たしてみたら」
「本来の目的ってなんですか?」
一年が聞く。
「周りを見て、どう?何か感じない?」
周りには色とりどりの魚が気持ちよさそうに泳いでいる。
「魚ですか?」
そう言う事、と言って、今作った中にグッピーを入れた。
ワー
「そうか、別に魚を入れるのに規定はない」
でもいいのかな?
植物だけではない、石や流木、作り物を入れたりもするんだ。大会本部に聞いてみよう。
オッケーはもらっていた。
最後の最後、そこまで、いれるものは隠しておくんだ。
「十五分前」
「落ち着け―!」
【せーの、深呼吸!】
三人が、手を一瞬置き、深呼吸したのがわかった。
俺たちは大きな声を出した。
「よーし!!!」
動きが断然変わった、今回は、部長の阿部先輩、美香は去年も出たことで採用され、もう一人は、なんと一年の鈴木、やっぱりあいつも持ってるわなんて言われたけど。
男性が二人、今回もちょっと重いものが多いということもあった。それは、岩なんかで海の底の雰囲気を出したからだ。
手が上がった。
「よーし!!!」
わーという歓声が上がる。
指定された場所に置き、ライト、バブル装置にスイッチが入る。
部長が前に行き、水槽の前に立って全体を見た。
頷いた。
最後に入れた物は。
えび?
「魚じゃなかったんですか?」
「こっちの方が海っぽいだろ」
「淡水で、タイやヒラメもないしな」
そりゃそうだけど、透明な小さなエビが、ここからじゃ見えないけど入れられた。
手が上がった。
ウオーという歓声が上がった。
時間はまだあるが、タイムトライアル、手が上がった時点で、審査委員がなかをのぞき手が上がると時間が止まり合否がきまる。
すぐに審査委員の手が上がった。
キャー!
ヤッター!
俺たちの歓声は、三人にも届いた。ガッツポーズ。
みんなが飛び上がって喜んだ。
十校のうち、七校が合格、すべては最後の審査発表を待つこととなる。
四十五校中、合格したのは、約半分の二十校、審査が始まった。
みんなが願う、緊張が走る。
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