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第三話 ここまでやるの?
二月の末、水曜日の昼休み。
「はい、お茶です」
「ども」
「へー、三人おんなじお弁当だね?」
「あー、俺、いっつも学食なんすけど、千弘の母ちゃん作ってくれるって」
「へー、そうなんだ」
母ちゃんは今兄貴にできなかった弁当作りを楽しそうにしている。仕事ばかりで、冷凍食品ばかりの弁当、俺も翌朝手伝わされていた。そんな兄貴もたまに母ちゃんの弁当を持っていくのがうれしいみたいだ。三人も四人も変わらないわよと林の一ファンとして作ってあげるんだそうだ、へい、へい、でも中身は同じだからいいけどな。
先輩飯は?
終わった。
教室で食うんすか?
隣よ。
健は先輩と何気ない話をしている。
隣は、事務所用の机が並んでいる、職員室だよな、こっちが表、納得。
俺らは応接室ってところだもんな。
お、お前ら弁当か?とのぞく人。
「四井さん学食ですか?」
「いや、混んでるから外」
外?
「まじっすか?」
少し駅のほうに行けば、大学生を相手にした飲食店が多い、結構大きなビルもあるからそれなりに食べるところはあるのは知っているが外ってスゲーな。大学の食堂に行く人もいるんだって。ほー。
南先輩は?
彼女もそろそろ来るよ。
魅録先輩も?
「いやあいつは弁当だからな、そういやいつも食べてるのに遅いな」と会長の座るでっかい机を見ている。
「まったく、わりー、遅くなった、絵美―、お茶」と言って入ってきた魅録先輩も俺たちの間に挟まり弁当を広げ始めた。
まったくと言って話し始めた。
一年のある生徒の会社が不渡りを出した、今さっき、学園長へ連絡が来たそうだ。
「これが一覧、見てくれ」
「はい、お茶です」
「明は?」
「隣です、呼びますか?」
来てくれという、昨日の男性が入ってきた。
「何かあったのか?」
不渡りだそうだ、と四井さんのプリントを取り替えしみる。
「穴が開くか」
「関係者あたってくれ」
「わかった」
あのー?
「ああ、もしも、きみの親の会社が倒産したらどうなる?」
え?一瞬慌てた、考えたこともない。
「ここにいるものはなんねえよ、横でつながってるから、まあ、成り上がり物ってところか」
「さすがだね、でも、この不景気でね、どこも大変なんだ、だからいくら俺たち大手と呼ばれているところでもどこかがほころべば、穴が開いて修復ができなくなる、だから小さなうちに修復するんだ」
「でもそれは俺たちにはできませんよね」
会社の立て直しは無理だ、だが、それに関与しているところはどうだろう、あおりを食らって倒れる前に、ある程度は手を打っておいて、こういう時に切り離せば、リスクは最小限で押さえられるんだ。
「もし、ここの七人のうち一人が倒れれば、ここの七人、果ては生徒会につながりを持つものすべてが倒れる、だから切り落とす」
南先輩が入ってきた、怖いことを言うなと思ったけど、経営者であればこそ、そういう覚悟が必要ということか。
でも、俺本当にそうなの?
「木村君」
「はい」「なんだ?」
「えっと千弘君の方で」
「下で呼んでください」
「じゃあそうさせてもらうよ、この会社、取引があるらしい、調べてくれる?」
明先輩にプリントを渡された。
橋詰興産?熊本だ?知らないな。食べ終わった弁当箱にふたをしてスマホを手にした。もしもし、お忙しいですか?ちょっと調べてくださいますか、橋詰興産だそうです、今、中川?はい、連絡いただけますか、はい、わかりました。
「三月から新規ではいる、農家さんだそうです、すぐ調べるそうです」
「中川、そっちだな」と言う声が魅録さんが座っているパソコンの向こう側から聞こえた。
農家かー、切れるかな?と腕組みを頭の後ろにしてのけぞった。
「今農業はどこも大変なんで、貴重なんですけどね」
「へー、お前も言うようになったな、聿さんには食って掛かったのにな」
「ここだけにしてください、俺はまだ彼を父親だとは認めていないそれだけです」
経営者としてはどうだい?と四井さんに聞かれた。
「それは、認めます、彼を尊敬しているところもありますから」
「それでいいと思うわよ、いつかは親元を離れるんですもの、べったりも困るけど、経営者なら、家族を切り離して考える人は多いから」
「じいさんは、家族経営には厳しい人だ、だから君のお兄さんにはすぐに会社を立て直してもらったんじゃないのか?」
「立て直した?」
「俺はそう聞いてる」
健を見た、首を振ってる、あとで聞こう。
スマホが鳴った、聿さんの秘書立花さんから。
電話の向こう、中川農園は中川産業の中にある会社、そこが橋詰さんを使っている、今は中川とは縁を切りたがっていたが、なかなか切れないのが現実、でも、今、すぐに動くようにいいました。食品部の営業も動き出した、ということは鈴木さんかな?早く知らせてくださってありがとうと言われ、お礼は魅録さんにというと代わってくれと言われた。
「聿さんの秘書、立花さん、かわってほしいそうです」
「お電話代わりました、はい、いいえ、ありがとう存じます、では失礼いたします」
スマホを返された。案外あっさり。
中川産業、そこが不渡りを出した。
五組にいる中川の親戚になるそうだ。
何で彼に関係があるんでしょうか?
「そうね、簡単に言えば連帯保証人て所かしら」
「悪いが、彼があおりを食らう前に排除させてもらう」
「排除とは?」
「そうだな」
「そこは簡単に、親の責任で学校にいられなくなるわ」
責任ですか?
もっと簡単に言えば金が払えなくなると言う事だそうだ。
そういうことか。
「退学か転校だな」
退学、厳しいな。お金が絡んでくるからね、でもほとんどは転校になると聞きほっとしていた。
「さて、あとは連絡待ちだな」
何をするんですか?
「この学園は、編入者も多くてね」
「転校したいって生徒は多いのよ」
へーなんかすごいな、金持ってんだな。
「穴が開くから埋めるのさ」
埋める?
「それもできるだけ条件のいい子をね」
「でもそれは?」
「決めるのは理事長たち」
「でも、それを押すのは俺たち」
それになんかぞわっとした。
「名前が挙がってくるわ、それを入力、ある方々の賛同を得れば、めでたく合格」
昨日、話しただろ、一年は次に三名、守るべきものが減るのは困るんだ、この国においてもね。一人でもいい人材を作り上げたいんだ、教育は、最低の事の出来る者たちがいる、だが経営学は、やはり、そのスペシャリストが行わなければね。と言う、経営学?スペシャリストって誰だろう?
「さて、明日の午後は、外に出るからな、カバンをもって駐車場に集合、それと親には帰りが遅くなることも言っておけよ」
「運ちゃんにもな、帰りはちゃんと送っていくから」
どこに行くんですか?
「だから言ったろ、経営学を学びに行くんだ」
「ホームルームなんか出るなよ」
「掃除もいいからね」
「やったー」と喜ぶ健に腕押しした。
「ちゃんと言えよ、さぼりじゃねえんだから」
はーい。と小さくなった。
「さあ、時間だ、解散」
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