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最近は新人が入って俺も始めての教育係ってやつをやってる。
透さんがやってくれたみたいに使えるようになるまで仕込んでやるやつ。
これがなかなか難儀してる。
そいつは俺や透さんみたいになるべくしてなったわけじゃなく、借金を返すために売り飛ばされてきたやつだ。
セックスは好きな人とするものだと信じているような潔癖な男。
そういう風俗的な仕事は女がやるものだと思ってるし、男が男に抱かれるなんてあり得ないと思ってるみたいだ。
そういう嗜好の人を軽蔑してるわけではないんだろうけど、自分がするのはごめんだって顔に書いてある。
でも金のためだからやるしかないと腹を括っているんだろう。
ガチガチに緊張した顔をして俺にお願いしますと挨拶して来た時、向いてないのはすぐ分かった。
スポーツをやっていたらしい恵まれた体格と実直な見た目は、どう見てもサラリーマンだ。
それに、嫌がりながらも金のために仕方なく、なんてサディスト好みでひどいプレイにばかり当てられそうだ。
金は稼げるだろうが壊されるかもしれない。
媚なんか売ってたまるかって姿勢からまずなんとかしてやらないといけなさそうだった。
そういうプライドはこの仕事で不利益にしかならない。
捨てろとは言わないが、置き所を変えるべきだろう。
洗浄の仕方や慣らし方を教えてやりながら、向いていないのを確信した。
慣らしてやろうと洗浄後に触れただけで俺よりガタイのいい体を縮めてカタカタ震えてた。
もう力入りすぎて指なんか挿れられるわけもなくて、ローションたっぷり使って表面だけぬるぬる擦ってやりながら前扱いてやったけど怖がりすぎてなかなか勃たなかった。
なんとか揉みほぐして指をこれ以上ないくらいにゆっくりいれてやると吐いた。
俺はそんな風になったことないからびっくりしてしばらく呆然としてて、そいつはボロボロ泣きながら何回もえづいててかわいそうになってしまった。
透さんに訊けばそういう拒否反応が出る人もいるんだとか。
ますますこの仕事向きじゃない。
そんな調子だからいつまでも研修は終わらなかった。
女相手だと評判はよかったからそっちは仕事受けてたみたいだけど、数も多くないし稼ぎも少ない。
教育係の俺の責任だってオーナーに呼び出されてネチネチ言われた。
透さんが間に入ってくれたから軽く済んだけど、このままだとあいつはこの仕事じゃ借金返せないから別の方法をとらされるらしい。
この店が危ないとこと繋がってるのは知ってたけど、臓器売買なんて単語を聞く日がくると思わなかった。
そりゃ俺だって体バラバラにして売り飛ばされるくらいならもともとある穴掘られて稼ぎたい。
透さんは稼ぎ頭だからオーナーのお気に入りで、うまいこと話をつけてくれたから少し時間をもらえた。
多分透さんはオーナーとも寝てるんだと思う。
俺はなんとかそいつがバラバラにされないように策を考えてみたが、初めての教育係にはハードルが高すぎた。
透さんに訊いてみれば、精神的にどうにかするしかないんじゃないかとか。
男ってのは結構繊細で、心が受け入れてなかったら体も受け入れてくれない。
価値観からぶっ壊すなんてなかなかできる芸当じゃない。
この年になればそういうのはほとんど出来上がってるし。
どうしたもんかと悩んでる時、そいつがオナってるところを見た。
いや、俺らの立場だったらそう言うんだろうけど、あいつは一本だけなんとか指ねじ込んで、ギチギチに締め付けながらボロボロ泣いてた。
当然勃ってなくて、痛そうで快感なんて少しもなかったと思う。
おまけに俺がオーナーにどやされんのが自分のせいだって分かってるから、何回も謝って自分を責めてた。
そうすれば余計に体は固く閉じてうまくいかなくて、追い詰められての悪循環。
隈はできてたし泣きすぎて目赤くなってひどい顔してたからなんとかなだめて寝かせてやった。
ぐずぐずしゃくりあげながら小さくなって仮眠室で寝てるあいつが気の毒で仕方なかった。
綺麗な場所で生きてきたんだろうなと思った。こんなところ少しも似合わない。
たぶん愛情溢れたところにいないとだめなやつだと思う。
訊けば騙され裏切られて背負わされた借金だっていうし、身も心もボロボロって感じだった。
よってたかって小動物をいじめてるような気分になる。
最近はタチをやってほしいって男も多いからせめてと思って抱かせようとしてみれば、俺が思いっきりやらしく目の前で慣らしてみせても無反応だった。
それなりに自信はあったから俺はなかなかにショックだった。
あんあん言いながら指突っ込んで広げて見せてやったっつうのに青い顔しやがって。
本当に男に興味なんてないんだろう。
まして自分もいつかこんな風になるんだろうかと思えば気分が上がらないのも分かる。
俺もすっかり気持ちが萎えて、オナニーショーはやめて咥えてやったら、それなりに反応した。
でも直接的な刺激に生理的な反応を見せてるだけって感じだ。
俺が乗っかれば射精までは辿り着いたけど、目は瞑ってるしガチガチになってるし、なんか俺が犯してるみたいだった。
結構気持ちよかったみたいで奥にたっぷり出してたのに男とすることには抵抗感が大きすぎるみたいだ。
こんなんじゃお払い箱間近だな、と思う。
本人も努力はしてるみたいだけど根本的に受け入れられないものに慣れるのはそう簡単なことじゃない。
俺が借金を肩代わりしてやれれば、貯金はなくなるものの今より少し仕事を増やしてガツガツ働けば無理な額じゃない。
もともと贅沢はしない方だし金は溜まっていた。
何の関係もないやつをかばって借金を背負うなんて馬鹿みたいだけど、それでこいつがここから出ていけるならそれでもいいと思っていた。
何してんだろと思いながらも、何度考えてみても自分の中では既に決まっているようだった。
まいったなと思う。
こんなところで愛だの恋だのに出会うなんて。
好きな人とするよりよっぽど楽だよ、という言葉を思い返しながら俺はオーナー室の扉をノックした。
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