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 昇降口を出て正門を通ると、強い日差しが日陰に馴染んだ体に鞭を打ちビリビリとした。  アスファルトからは熱気がムッと立ち込め陽炎を揺らめかしている。正門の前は坂だ。 学校は坂の上に建っていた。歩道の奥は住宅街。未来は、気怠そうに坂を下った。 「暑い」  行儀悪く、襟首のボタンを2個開き、スカート丈を上げた。それでも暑い。 腕にあるヘアゴムを口で咥え、長い髪を束ねてゴムで結った。額から汗が流れる。しかし、手だけは冷たい。 「だー。退魔師の契約、緊張してきた」 「考えても、しゃーないやろ。そんなことより未来。だらしない格好するなや。いつも言うとるやろう」  小脇に下げていたスクール鞄の中から、くぐもった声が聞こえてくる。  ジーと鞄のファスナーが開き、モゾモゾと動く物体。掌サイズの狐の縫いぐるみが鞄から顔をぴょこんっと出した。  愛らしい姿の縫いぐるは、愛くるしくもない野太い声の京都弁で未来に喋り掛けてきた。  彩兄である。 「女の子なんやから、慎ましくせなあかん」  彩兄こと狐の縫いぐるみは、未来の守護霊だ。  訳あって、縫いぐるみの中に入っている霊。つまり死んだ人間だ。 「今さら緊張したところで、状況は、かわらへん。気持ちだけは、どんとしとき」   守護霊の正式名。  退魔師、守護霊科である。  仕事内容は……。 「──たく。こんな所に、危険な悪霊がおるな」  同じ学校の男子生徒が坂を下り、未来を追い抜いた。男子生徒の背後には、頭をハゲ散らかした中年のおじさんがいた。 「どうも」  と未来と彩兄を見て中年のおじさんは会釈をした。未来と彩兄は小さく頭を下げた。  回りには、おじさんは見えない。守護霊だからだ。
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