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「コレ何? 猫? 可愛い」
「樹脂粘土で作ったマスコット人形だよ」
「へー。器用だね」
「親が粘土作家なんだ。その影響で私も作ってるの」
未来の母親は粘土作家だ。物心着くころには粘土が身近にあった。
母の手から生み出される粘土たちは、まるで宝石のように輝いて見え、未来は、じっと母の作る様子を観察したものだ。
「未来もやってみる」そう母に言われ作り始めた。
白い粘土から形成されるキャラクターたちが面白くて未来は没頭して粘土を作った。だからって、母親の様に売る気持ちは一切無い。
未来の家族は、四人家族。
父と母、四歳上の兄と未来だ。
生まれは京都。四年前に父の仕事の都合で愛知県に引っ越してきた。
愛知に来た当初は、京都弁を話していたが、からかわれたり嫌がらせをされるのではないかと思い、必死に標準語を覚えたのだ。
『意地っ張りやな未来は』
兄にはそう言われたが、そんなことは無い。兄が、気にしなさすぎるのだ。これって意地っ張りなのだろうか。
「こんな凄いの作れるんだ」
キラキラとした目で粘土を見つめる理恵に、未来は微笑んだ。
自分が作った物を褒めて貰えるのは嬉しい。
理恵は未来に粘土を渡そうとして、それを未来が制した。
「それあげる」
「いいの」
未来が頷くとパッと理恵の表情が明るくなる。
「有り難う。そう言えば、あやせっち。急いでるんじゃなかった」
はっとして時計を見る。
十二時五分。
「うわ。急がなきゃ。じゃあね理恵ちゃん」
未来は手を振ると。慌てて教室を出て行く。
教室を出ると今度は、鉢合わせた人とぶつかり、吹っ飛ばされながらヨタヨタして、「ごめんなさい」と言いながら未来は走って行った。
未来は急いでいたのだ。
今日これから常国(黄泉の国)で、未来の退魔師見習い契約が執り行われるからだ。
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