1-3

2/2
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
 学校の坂下は、小さな工場が建ち並んでいる。その塀と塀との間に、悪霊が挟まって、こちらを伺っていた。 ーー憎い。憎いーー  なんで、悪霊って塀の間とかに挟まりたがるのだろうか。  よく塀の間で見かける。  ヒンヤリして暗いからかな?  なんて、どうでもいいことを未来が思っていると、おじさんは、ぶつぶつと文句を言いながら仕事に取りかかった。 「まったく」  そう言うと、おじさんは懐から黄色の丸いボール玉を出し、天高く投げ上げた。  きらりとボールは艶光りし宙を浮く。  ボンと破裂する。  するとそこに大きな黄色の風船が浮かんだ。  風船にはデカデカとこう書かれていた。 『祓い師の人へ。悪霊がここにいますよ』 守護霊の仕事内容は、危険な悪霊を見つけて報告するのが仕事である。  おじさんは、なにごとも、無かったかのように、男子生徒の背後に戻り、未来たちを置いて坂を下って行った。 「未来は、なにもするなや。悪霊を相手するんわ。祓い師の仕事やからな」 「わかってる。悪霊の相手は退魔師の仕事じゃない。だから私は手を出さないよ」 「そうや。未来は退魔師……になる身やからな」 「もう。いいでしょう。今日。退魔師になるんだから」 「見習いな。み・な・ら・い」  ぷうっと未来の頬が膨らむ。  むううう。 「退魔師は常国の仕事や。死者の国。異界の仕事やから緊張するんは、わかるが、しゃんと気を引き締めよ。だいたい日頃から未来は、気が緩みすぎるんや」  おっとこれは彩兄のお説教タイムが始まる予感。 「テスト勉強だって、俺にばかり聞きおって。ええ加減、自分でせーよ。俺が死んだんわ17歳やで、そろそろ俺かて内容わからへんからな、それと……ヤバイ人や」  言いかけたとき、真っ赤な顔をしたおばちゃんが、両手に沢山入ったスーパーの袋を持って坂を登ってきた。  彩兄。隠れろ!  彩兄は体を硬直させて普通の縫いぐるみのふりをした。  未来は愛想良くおばちゃんに会釈をしてすれ違う。おばちゃんと距離が離れたところで、未来はボソリと彩兄を見下ろした。 「もう。動いていいよ」 「ほんま。縫いぐるみのフリは肩こるわ」  守護霊は本来ならば霊体の姿。普通の人には目に映らない。しかし、訳あって縫いぐるみの中に入っている彩兄は、縫いぐるみが動いているように見えてしまうのだ。  うようよ動く縫いぐるみ。ポルターガイスト。  なんて騒がれることになっちゃうかもね。  そのため。彩兄は人の前では縫いぐるみの振りをしている。 「人は、もういないな。ええか。未来は、もうちょー。退魔師についてちゃんと考えなあかん。危険な仕事なんや。妖魔を退治するんやから気を引き締めな怪我する、わかったか。ぽやぽやしてたら、あかんちゅーことやよ」 「もう。わかってるってば」  まったく。もう。心配してくれるんだろうけど、彩兄は昔っから五月蠅いのだ。  未来は小さく溜息をついた。  今日から退魔師(見習い) 「ああ。緊張する」
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!