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学校の坂下は、小さな工場が建ち並んでいる。その塀と塀との間に、悪霊が挟まって、こちらを伺っていた。
ーー憎い。憎いーー
なんで、悪霊って塀の間とかに挟まりたがるのだろうか。
よく塀の間で見かける。
ヒンヤリして暗いからかな?
なんて、どうでもいいことを未来が思っていると、おじさんは、ぶつぶつと文句を言いながら仕事に取りかかった。
「まったく」
そう言うと、おじさんは懐から黄色の丸いボール玉を出し、天高く投げ上げた。
きらりとボールは艶光りし宙を浮く。
ボンと破裂する。
するとそこに大きな黄色の風船が浮かんだ。
風船にはデカデカとこう書かれていた。
『祓い師の人へ。悪霊がここにいますよ』
守護霊の仕事内容は、危険な悪霊を見つけて報告するのが仕事である。
おじさんは、なにごとも、無かったかのように、男子生徒の背後に戻り、未来たちを置いて坂を下って行った。
「未来は、なにもするなや。悪霊を相手するんわ。祓い師の仕事やからな」
「わかってる。悪霊の相手は退魔師の仕事じゃない。だから私は手を出さないよ」
「そうや。未来は退魔師……になる身やからな」
「もう。いいでしょう。今日。退魔師になるんだから」
「見習いな。み・な・ら・い」
ぷうっと未来の頬が膨らむ。
むううう。
「退魔師は常国の仕事や。死者の国。異界の仕事やから緊張するんは、わかるが、しゃんと気を引き締めよ。だいたい日頃から未来は、気が緩みすぎるんや」
おっとこれは彩兄のお説教タイムが始まる予感。
「テスト勉強だって、俺にばかり聞きおって。ええ加減、自分でせーよ。俺が死んだんわ17歳やで、そろそろ俺かて内容わからへんからな、それと……ヤバイ人や」
言いかけたとき、真っ赤な顔をしたおばちゃんが、両手に沢山入ったスーパーの袋を持って坂を登ってきた。
彩兄。隠れろ!
彩兄は体を硬直させて普通の縫いぐるみのふりをした。
未来は愛想良くおばちゃんに会釈をしてすれ違う。おばちゃんと距離が離れたところで、未来はボソリと彩兄を見下ろした。
「もう。動いていいよ」
「ほんま。縫いぐるみのフリは肩こるわ」
守護霊は本来ならば霊体の姿。普通の人には目に映らない。しかし、訳あって縫いぐるみの中に入っている彩兄は、縫いぐるみが動いているように見えてしまうのだ。
うようよ動く縫いぐるみ。ポルターガイスト。
なんて騒がれることになっちゃうかもね。
そのため。彩兄は人の前では縫いぐるみの振りをしている。
「人は、もういないな。ええか。未来は、もうちょー。退魔師についてちゃんと考えなあかん。危険な仕事なんや。妖魔を退治するんやから気を引き締めな怪我する、わかったか。ぽやぽやしてたら、あかんちゅーことやよ」
「もう。わかってるってば」
まったく。もう。心配してくれるんだろうけど、彩兄は昔っから五月蠅いのだ。
未来は小さく溜息をついた。
今日から退魔師(見習い)
「ああ。緊張する」
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