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 下校途中。  学校の前の坂を下り、交差点を左に渡ると,外周1キロのお散歩コースの古戦池が見え、未来は足を踏み入れた。  古戦池は池を中心にした公園。  池の中には鯉が沢山いて、時々パンを持ってきては餌を与えている人を見かけた。  池の前には、等間隔にベンチが並び、木陰ではよくお年寄りが座り、お喋りをしている。  犬の散歩やダイエットのために歩いている人。奥に行くと、ちょっとした木造のアスレチックもあり、小さな子供連れの親子も多い。  しかし、今日は生憎の暑さ。昼時ともあって人々は(まば)らにしかいない。  来た。来た。  っとバサバサバサと鴉が羽ばたき、一斉に飛び立った。  カーカーと鴉が一点に向かって威嚇の声をあげた。  薄暗い木陰の木々の間を、沢山の鴉たちが、ある者を凝視する。  風もないのに、枯れ草がカサリと音をたてた。  暑い。それなのに背筋かヒンヤリとする。その感覚はお馴染みの物。 ―それは、姿を現した。  おいでなさった。  頭から矢が刺さされ、乱れたざんばら頭に土気色の顔の落ち武者が、カタカタと機械仕掛けの様に動いた。  手には錆びれた刀剣を持ち、手と足が折れ曲がり、糸で吊されたマリオネットの様な動きで未来を見つけた。 「まあ。落ち武者も出るわなー。古戦池やから」 「なんだっけ。ここで昔。戦があっただったよね。こんな昼間っからでるなんて、それもさっきみたいに、物影で隠れててくれる悪霊じゃなさそうだよこの人」  落ち武者は、窪んだ目をして血の涙を流し、ボソボソと何かを求めている声が聞こえた。そんな姿を見れば同情しないわけではない。  ずいぶんと魂を喰われてしまったようだ。  可哀想なんだけどね。 「もう、自分が誰で、なんでここにいるのかすら、わかってへんのやろうな。可哀想やけど、もう退治するしかあらへん」  未来は、悪霊の中で蠢いている、妖魔を睨んで小さく呟いた。 「妖魔なんて、すべていなくなればいいのに」  こんなことは日常。とは言え、やっぱり悪霊の中にいる妖魔を見ると胸の中に仕舞い込んでいた嫌な感情が渦巻いた。 弱くてわんわん泣くしか無かった幼いころの自分の姿が思い浮かんだ。  悪霊。怖かったからな。昔は。  
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