46人が本棚に入れています
本棚に追加
悪霊が、未来を見つけてニヤリと笑った。餌と認識したようだ。
ですよね。
悪霊の近くを、小さな子供を連れた親子が歩いていた。母親は子供に歩く練習をさせている。
母親は子を地面におろし、1メートル離れた所で子供を呼んだ。子供はヨチヨチと歩いて、母親の元に向かっていた。
そこに、悪霊が向かって来た。
子供をすり抜け、母親もすり抜ける。
未来目指して一直線だ。
子供が、小石で足を捕らわれベタンと転んだ。途端に、わっと泣く。
―私はもう弱くない。
未来はパンっと両手を祈るように手を合わせた。
幼いころなら、今頃、泣いてじいちゃんを呼んでいただろう。
しかし。
風が四方八方から通り過ぎ漆黒の髪が頬を掠める。
手から金色の砂塵の粒が淡い光を放ち、丸い形へと形成されて、未来の体を覆い包んだ。
「結」
シャボン玉の様な不思議な色を帯びた直径二メートル内の透明な幕が構成された。
これは未来が覚えた結界の術。
よし。完璧。
悪霊は未来の前をすり抜け、立ち止まった。
キョロキョロと未来を探している。
未来の強い魂の気配が結界によって消えたからだ。
人の魂は器(体)によって守られている。しかし、未来のように魂が強い物は器に入りきらない。そのため、魂が器から洩れて悪霊。つまり妖魔に見つけられるのだ。
―私は強くなった。
自分の身くらい自分で守れる。泣いてるだけの子供はもういない。
これからは守られる側じゃない。大切な人達を守る側になるんだ。
じいちゃん。私。強くなったよ。
悪霊は、血の涙を流し「腹が減った」とブツブツと呟き林の奥へと歩いて行った。
子供の泣き声が、わんわん聞こえた。
母親は、子供を抱きかかえ、一生懸命あやしている。
ここには、変わらない日常があった。
最初のコメントを投稿しよう!