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「退魔師にならへんか?」
祖父にそう言われたのは、ひぐらしの鳴く不気味なほど真っ赤な夕焼け空の祖父の通夜の日のことだった。
亡くなったはずの祖父がしゃがみ込み、真っ直ぐ見つめてきて言ってきたのだ。
綾瀬未来が7歳のころだ。
未来にとって祖父は、ヒーローの様な存在で、ピンチのとき、いつも駆けつけてくれた。
そう、その日も、死んだはずの祖父が、助けに来てくれた。
****
「じいちゃん。なんで死んでしもーたん」
線香の匂いがむっと満ちていた。沈鬱な空気が漂っていて未来は息が詰まりそうだった。喪服を着た大人たちが哀しみながら通夜に参列し
ーー頑張りなはれよーー
と励ましの言葉を口にした。
頑張るってなにを?
子供ながら大人の無神経な言葉に苛立ちを感じていた。
斎場が黒く染まっていく。無機質なパイプ椅子に人が並び、まるで黒いオセロが並んでいくように思えた。
遺影には笑顔な祖父がでかでかと色鮮やかな花に囲まれている。
遺影を眺め立ち尽くしていると、感情の波が押し寄せてきて未来の瞳からボロボロと大粒の涙がこぼれた。
「じいちゃん」
大人たちの未来を見る目が哀れさを含んでいた。
もうすぐ式が始まる。
だが未来は、その視線が辛くて、そっとその場を離れ部屋を出た。外の空気を吸ってから戻るつもりだった。
外に出ると涼やかな風がフワリと頬を掠める。それすらも酷く目に染みる。
空を仰げば紅色に燃える夕日は、まるで揺らめく炎の様だ。
手を差し出せば、空に届くだろうか。
っと。
―そいつは来た。
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