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──常国(とつくに)(黄泉の国)    今、ひとつの魂が消滅した。  人の形をしていた魂は、淡雪の様に漂い消えてしまった。それは、永遠の死である。転生すら、もう出来ない。 「お前は、退魔師失格だ」  小さな子供を背に庇い、男は青年に言った。  青年は不快そうに、眉をつり上げた。 「言っている意味がわからない」  殺気を帯びた視線が、あちらこちらから青年を射ぬく。  笠井村の住人の視線だ。  ある者の腕からポタリと血が滴り落ちた。崩れた瓦礫で怪我をしたようだ。  村の中は、至る所が崩れ、家や屋根や庭など酷い有様だった。  家には大きな穴が空き、折れた柱が剥き出しで飛び出し、屋根の(はり)は崩れ落ち、瓦が割れ落ちている。 庭の木は裂けるように割れ、すももが地面に落ちていた。  それらは、虎抄(こしょう)という妖魔の仕業だ。  虎の様な体躯に、鋭い象牙のような長い牙を持ち、太い足には五本のナイフが生えている。  虎抄の足が、ピクピクと痙攣した。  横たわり、辺りは血の海が広がっている。  青年の足元で、虎抄は息絶えていた。  青年は、持っていた刀剣を、さっと払い、血振りをし鞘にしまった。 「お前を一流の退魔師など認めない」  男は、怒りながらワナワナと震える。その背にいる小さな子供が、わっと泣いた。 「お母さん」  男は、子供を庇いながら怒鳴った。 「退魔師は人を助ける仕事だ」 「救ってやっただろう」 「こんなのは救ったとは言わない。何で、この子の母親ごと虎抄を、その刀剣で貫いた」  青年は、首を傾げた。
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