新しい物語

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なんで.......? 目の前にいる愛おしい人達の姿に唇が震える。 『――お父さん、お母さん』 名前を呼ぶと、私の部屋で泣いていたお父さんとお母さんが驚いたように顔を上げた。 『リリカ!!』 目が合うと、座り込んでいたお母さんが立ち上がり飛びつくようにあたしを抱きしめた。 『リリカ……リリカなのか……!?』 お父さんは信じられないという表情を浮かべて私の方へ歩み寄る。 お母さんはもう二度と離さないというように痛いほどの力で私を抱きしめた。 『お父さんとお母さんからもらった大切な命を手放してごめんなさい……。悲しませて……苦しませてごめん』 『……リリカ、謝らないでくれ。リリカの苦しみに気付いてあげられなかった父さんたちが悪いんだ……。本当にごめん……』 ボロボロと涙を流すお父さん。 お父さんが泣くところなんて見たことがなかったのに、私が死んでからは毎日のようにこうやって涙を流している。 二人ともやつれて痩せてしまった。まともに食事もとっていないようだ。 このままじゃお父さんとお母さんが倒れてしまう。 『私はもう大丈夫だよ』 お父さんとお母さんは生前の苦しみだけでなく、死んでしまったあとの私の心配もしているに違いない。 『今はひとりぼっちじゃないの。北斗っていう男の子と一緒に仕事をしてるの。神様に任されたんだよ。すごいでしょ?それに、ララもいる』 『ララも……?』 『うん。子供だけがこられる図書館で悩みを解決するお手伝いをしてるの。私と同じように悩んだり苦しんでる子達を一人でも多く救いたい。笑顔にさせたい』 ――私の存在意義。浮遊霊になった私のできること。 『それにね話すと長くなるんだけど、天国でお父さんとお母さんに笑顔で会うっていう目標ができたんだ』 『天国で……?』 『うん。だから必ず会おうね、天国で――』 そろそろ戻らないと。 言いたいことは山ほどあるのに、お父さんとお母さんを目の前にするとうまく言葉にならない。 だけど、これだけは伝えたい。伝えておかなくちゃいけない。 最期に伝えられなかった言葉。 『私はお父さんとお母さんの子供に生まれてきて幸せでした。私を産んでくれてありがとう。ずっとずっとずーっと大好きだよ』 『リリカ……!!』 『リリカ待って。いかないで!!』 私の体が透けはじめる。 抱きしめてくれていたお母さんのぬくもりが消える。 それでも私は笑っていた。 『お母さんもリリカが好きよ。大好き。離れていてもずっとリリカのことを想ってるから――!』 『父さんもリリカを愛してる。約束だぞ。必ず天国で会おう!!それまでお父さんもお母さんも頑張るから。リリカに胸張って会えるように頑張って生きるよ』 涙を流すお母さんの体を支えながら決意を込めてそう言ったお父さん。 『母さん、笑おう。笑顔でリリカを送り出してやろう』 『……っ。リリカ、また。また必ず会いに行くから。天国で。必ず――』 涙を流しながら必死に笑うお母さん。その隣で同じように笑うお父さん。 『ありがとう』 私は二人に笑顔で手を振った。
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