花火の約束 P.1

1/1
前へ
/2ページ
次へ

花火の約束 P.1

今年の夏もあともう少し。この夏が終われば、もうみんなとは過ごせなくなる。来月から1人だけ都会に行ってしまう僕は、今までたくさんの思い出を共に過ごしてきたあいつらに、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだった。だから、今年の夏祭りだけは4人で行かないようにしよう。そう思っていたのに、今日この日まで言い出せずにいた。 「遅せーぞ、音耶(おとや)!いつもは誰よりも早く来るのに、一体どうしたんだよ?」 「ご、ごめん、(りょう)。待たせて」 「音耶、遼のことは気にしなくていいよ!こいつは、こういう時だけは誰よりも早く来るんだ」 「うっせぇぞ、珠漓(じゅり)!お前がいつも遅いから、ここでみんな待つハメになるんだよ!!」 「遼くん、珠漓ちゃん。音耶くんと過ごせる最後の夏祭りなんだから、仲良くしようよ」 「ばっ、(すみれ)!それ言っちゃダメだよ・・・!」 そう。この3人、佐渡遼(さわたりりょう),神崎珠漓(かんざきじゅり),桐生菫(きりゅうすみれ)と過ごすのは今年で最後だ。小学校の時からの幼なじみで、中学3年生になる今までずっと一緒に過ごしてきた。でも、それも今年で終わり。早く言わなきゃ、菫に言われたままで終わってどうする。 「気にしないで、珠漓。今日はそのことで、話したいことがあったんだ。今年で最後だからさ、今日の夏祭りは4人で過ごすのやめない?」 「えっ、ちょ、音耶、何言って―」 グイッ。バキッ。ドサッ。 「きゃあぁぁ!ちょっと、遼くん!!」 ガシッ。 「遼、何やってんだよ!!」 「音耶、てめぇ!それ本気でいってんのか!?本気なら、もうお前とは親友やめるぞ!!」 「だって、最後の夏祭りなんだよ!?最後なのにみんなで過ごしたら、過ごしたら・・・」 ポタッ。ポタッ。ボロボロ。 「みんなと離れるのが、余計に辛くなるだけじゃないか・・・」 「音耶くん・・・」 「音耶・・・」 「・・・っお前っなぁ!お前が、お前が泣いちまったら何も言えねぇじゃねぇか・・・」 今まで泣かなかったのに。今日だって泣かないつもりだったのに。みんなを前にすると涙が止まらなくなってしまう。都会に行くのは、僕自身の意思じゃない。だから、余計に辛いんだ。 「ヒック、ヒック・・・。グスン。ごめん。だから、もう今日はこれで―」 「最後だから、一緒に過ごすんじゃねぇのか?」 「えっ?」 「そうだよ、音耶。最後の夏祭りだからこそ、一緒に過ごす意味があると思う」 「そうだよ、音耶くん!そんな悲しいこと言わないでよ」 「みんな・・・」 「ばっ、お前!また泣くなよ!?」 「遼。お前はまず音耶に謝れ」 「あ!みんな、もう花火の時間になっちゃいますよ!早く行きましょ!」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加