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花火の約束 P.2
「いつもよりちょっと遅れたけど、この場所は空いててよかったぜ」
「ここは穴場だしな。誰も知らない、あたしたちだけの特等席だ」
「かき氷と、いか焼きと、たこ焼きと・・・。相変わらず買いすぎだよね、僕たち」
「大丈夫!全部食べるから!!」
「いつも思うけど、菫のそのほっそい体のどこに入るんだろ・・・?」
「ほんっと謎だよな・・・」
今更だけど、最後の夏祭りをみんなとまたこうして一緒に花火を見れるのは、嬉しいことなんだなと改めて思った。今日まで悩んでたのがバカらしくなってきた。やっぱりこの4人でいることは特別な思い出だと思う。
ドーン。パチパチ。ドーン。パチパチ...。
「夏が終わっちゃうな・・・」
「花火見てるとそんな気分になるよな・・・」
「夏が終われば、音耶は都会に行っちまうんだよな?」
「うん・・・」
「そんな顔すんなって!今生の別れじゃねぇんだし。また会えるだろ?」
「うん。夏休みはこっちに帰りたいなとは思ってる」
「ねぇ、みんな。私ちょっと提案があるんだけど、音耶くんに手紙を書いて送り合うっていうのはどう?」
「それいいな!文通だろ?」
「手紙って・・・。音耶は都会に行くんだから、メールとかがいいんじゃね?」
「僕は手紙でもいいよ。手紙の方が思いが伝わる気がする」
いつも一緒にいるならメールがいいのかもしれないが、僕はいなくなるのだから手紙の方が味があっていい。それに、昔はよく4人で手紙出しあってたなぁ。懐かしい。
ドーン。パチパチ。ドーン。パチパチ...。
最後の花火がうち上がった。今まで見た花火よりも一番綺麗に思えた。そして、僕たちの最後の夏が終わった。
それから数日後。僕は都会へと旅立った。山田町を離れる最後の日、3人が最後の別れをしに来てくれた。
「元気でな!音耶」
「手紙送るからちゃんと返事しろよ?」
「わかってるよ。必ず書いて送るから」
「向こうでも元気で。また来年の夏に!」
「うん!」
都会に行ってから、僕たちは手紙を送り合うことが習慣になった。2週間に1回、3人それぞれから手紙が届く。内容は様々で、遼は中学でのことが多い。部活を頑張っているみたいだ。珠漓は家と遼のことが多い。珠漓の家は所謂金持ちのお家で、習い事が増えたと嘆いている。あと、昔から遼のことを気にしてたから遼のことが好きなんだろうなと思う。菫はみんなと過ごす日々のことをよく書いている。みんなのことをよく見ている彼女が、危なっかしい2人を陰ながら見守るお母さんに見えることがある。みんなそれぞれ山田町での暮らしを、僕がいた頃となんら変わらず過ごしているようで安心した。でも、3人の手紙には共通してこう書かれている。「来年の夏も、また一緒に花火を見よう」。この約束は、僕たちを永遠に繋ぐものだ。僕たちの絆は永遠に結ばれる。来年の夏、またあの町へ帰ろう。僕たちの決して終わることのない、永遠の「花火の約束」を果たすために。
完
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