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恐る恐る目を開ける。飛び起きはしなかったが心臓がうるさい。冷や汗。涙が頬を伝っている。あたりはまだ暗い。時計は4時半を指している。
「嫌な夢…」
大人でも怖い夢を見て泣くことがあるらしい。パパの顔は朧にも思い出せなかった。
アラームが鳴るまであと1時間半あるが、もう一度眠りにつくのは怖い。起き上がってキッチンに行き、水を飲むとようやく落ち着いてきた。布団を畳み、押し入れに仕舞うとテレビの横にある小さな引き出しを漁る。あった。以前ドラッグストアのコスメコーナーで見つけてから気に入っている、"freshening"というコスメブランドのネイル。その中でも僕は最近買ったスカーレットが特に好きだ。会社ではネイルは自由だから、久々にネイルを塗ることにする。
「あれ、禱起きてたんだ。早いね」
「うん。なんか嫌な夢見ちゃって。しゅんくんは?」
「あー、躑躅祭があるだろ、神楽橋の方で。舞を披露する人なんかは朝早いからね」
しゅんくんは髪をひとまとめにくくって顔を洗う。しゅんくん──叔父である兎公 絢佐は、このアパート"Water Iris"の1階で美容室を切り盛りしている。ちなみに僕がネイルにハマったきっかけもしゅんくんである。
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