第1話 stars-in-stones

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「まあ、そういうわけで、9時ぐらいまで店にいるから、朝ごはん先食べといて」 「わかった」  そう言うとしゅんくんは自分の部屋に戻った。この時間は面白いテレビもやっていないし、スマホを確認する。メッセージが何通か来ていたが、今返すと向こうは通知がうるさくて迷惑だろうと思い一旦無視する。その中に、多岐さんからのメッセージがあった。 〈禱くん、この間はありがとう。貴婦人の乗馬、すごく好評だったよ。次はパッヘルベルのカノンを弾いてくれって言う人もいたんだけど、どうかな?〉  多岐(たき) 槭樹(かえで)さんはこのアパートの305号室の住人であり、神楽橋駅の南、夕陽町(ゆうひまち)にあるピアノカフェ"moderate(モデラート)"のオーナーでもあり、高校生の頃からお世話になっている。 〈ぜひ!〉 〈ありがとう。暇な時いつでもいいから、来て弾いてくれると嬉しいな〉  すぐに返信が来た。カフェは少し遠いから今ごろ起きて準備しているのだろう。 〈わかりました。では、今週の土曜日に伺います!〉 〈うん、待ってるよ〉  多岐さんにこう言ってもらえて嬉しい。  きっかけは高校1年生のとき、バレー部の交流会終わりに同期の片瀬(かたせ) (りょう)と一緒に"moderate"に偶然入ったことだった。お洒落な店内の中央にステージがあり、そこに大きなグランドピアノがあって、壁には「誰でも自由に弾いてください」と貼り紙がしてあったのだ。
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