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おばあちゃんが教えてくれたのだが、そのピアノはママが初任給で買ったのだそうだ。そのピアノはママの遺品として処分できず、今はしゅんくんの部屋の押し入れで眠っている。
「僕もまた君みたいに弾けたらなぁ」
多岐さんはぽつりと呟いた。多岐さんもピアニストだったらしい。数々のコンクールで賞を受賞し、プロを目指していたが、ある日指が動かなくなり、ピアノを弾けなくなってしまった。病院でジストニアと診断され、ピアノを諦めざるを得なくなったが、それでもピアノを近くに感じていたいから、とこのピアノカフェをつくるに至ったのだそう。
「そうだ、君たち、ここでバイトしないか」
ふと多岐さんが言った。それで、玲と2人で、ここでバイトすることになったのだ。
それから、高校卒業と同時にバイトを辞めた今でも、多岐さんは僕を招待してくれるのだ。玲も、2年生から同じクラスだった中西 佳斗を連れて時々来ている。玲は今は私立月雅総合大学の薬学部にいて、佳斗は"daisy"という服屋に就職している。ママの勤め先もここだった。
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