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噂の稲荷神社には、神さまの試練があるらしい。(3)
ってどこに置いたらいいのよ。地べたに置くわけにもいかないよね……。仕方がないから、お賽銭箱の端に載せてみた。
「お供えするのはいいけど、ちゃんと後から持ち帰れよ。そのままにしておいたら、野良猫やカラスに漁られて迷惑かかるぞ」
「わかった、わかったから!」
小姑か、こいつは!
金額はとりあえず悔いがないように500円にしてっと。なんでお札じゃないかって? 今払える最高金額が500円なんだよ、とほほ。
――先生と……――
先生と両想いになれますように。そう願いたかったけれど、言葉にすることができなかった。親友にも話したけれど、私は先生と彼女の仲を裂きたいわけじゃなかったから。
うんと考えた上で、願いを伝えた。
――先生が幸せになれますように。私も幸せになれますように。私が先生のことを好きなことを、先生にちゃんと伝えらえますように。心の片隅で構わないので、先生が私のことを覚えていてくれますように――
本当はさ、1回くらいデートをして、あわよくばむふふなこともしてみたいっちゃしてみたいけれど。私もそりゃあ年頃の女子だからね。でも、やっぱり好きなひとの幸せが一番だからさ。
「願いごとの中身ってなに?」
「それ初対面の人間に聞く?」
「……話したくないなら、別にいいけど」
「えへへへ、私好きなひとがいてね」
「いや、やっぱりいい。なんか話が長くなりそうだし」
「え、いいじゃん聞いてよ。そのひとって、学校で数学を教えてくれる先生なんだけどさ」
「教師と恋愛なんか、小説か漫画だけの世界だろ。アホらし」
「見ず知らずの人間にそんなこと言われる筋合いなんてないんだけど」
「……本当のことを言ったまでだ」
「それで相手がどう思うかとか、考えたりしないの? 幼稚園からやり直したら」
「じゃあお前は、教え子に手を出すような教師が道徳的だと思ってるのか?」
「そういう話をしているんじゃないでしょ」
「いいや、同じことさ。話は終わりだ。塾をサボってここに来ているんだ。お参りを済ませて、俺はさっさと帰るぞ」
「何を勝手に話を終わらせてるの。私はお参り終わったけれど、あなたが先生のことをわかってくれるまで、帰らせないんだから!」
そこまで言ってふと後ろを振り返ったとき。
私は目を瞬かせるしかなかった。だって小さな境内の向こう側には、白一色。それ以外には何もなかったんだから。
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