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噂の稲荷神社には、神さまの試練があるらしい。(6)
「それにしても、一体どうしてこうなったんだろうね?」
「噂を知っていてここに来たんじゃないのか?」
「噂?」
「ここは、願いが叶う稲荷神社。ただし、神さまが願いを叶えるにふさわしい相手か、試練を授けて見極めるらしい。試練に失敗すればここから出られなくなる。つまり神隠しにあった形になるわけだ」
聞いてない、そんなの聞いてないよ? 親友、わかってて言わずに送り出したってこと?
「衣笠くんは、もうお参りした?」
「まだだ」
「……じゃあ、これって私の願いごとが叶うかどうか、かつ家に帰れるかの瀬戸際ってことか。あのさあ、衣笠くん」
「知らん」
「まだ何も言ってないし! 私の人生がかかってるんだから、そんな冷たいこと言わないでよ!」
「自分の願いごとなんだから、俺を頼るな」
「でもどうせ一緒に閉じ込められてるんだから、力になってよ。大体、試練ってなんなの」
「そりゃよくあるのは、自分にとって怖いものと対峙するとかだろ」
「なんでフラグを立て始めるの?」
「傾向と対策。試験でも当然のことだろ」
「……そうだね」
「お前、友達の『全然勉強してない』を真に受けるタイプだな。大丈夫か?」
「ううううう」
思い出したくない記憶が!
「で、お前が今一番怖いものは?」
「赤点じゃない数学のテスト」
「は?」
「先生の補習を受けられないどころか、カンニング扱いされる可能性が高い……。バカだって思われるのはいいけど、ズルするやつって思われるのはイヤー!」
「むしろ、数学でカンニングとか、何を何のためにカンニングするんだ」
「そりゃあ公式をメモる」
「なぜ?」
「は?」
「覚えなくても、自分で作ればいいだろう」
「わーん、あなたにはわかんないのよおおお」
涙目で、衣笠くんに質問を投げ返す。完璧男子の怖いものを聞いて、笑ってやるんだから!
「で、あなたは何が怖いの?」
「この間スマホで音楽を聞いていたとき、気がついたらデータ通信になってた」
「うわ」
「確かに自宅のWi-Fiに繋いだはずなのにだ」
「なにそれ!」
「まだ請求が来てなくて、結構胃が痛い」
私もそれは怖い。想像したら、胃が痛くなってきた。でもさあ……。
「まあここで、求められている試練っていうのはこういうのじゃないよね」
「だろうなあ。お前、お化けとかそういう系統を一切信じない人間なのか」
「いやそういうわけじゃないけど、昔小学生の頃、『花子さん、遊びましょ〜』って言いながら仲良しグループのみんなで昼休み中トイレのドアを叩きまくったら、教頭先生にめちゃくちゃ怒られたから、花子さんより教頭先生の方が怖い」
「それはお前が悪いな」
少しだけ、空気が変わった気がした。それは、衣笠くんも感じたらしい。
「今の会話のキーワードは、たぶん『花子さん』だな。相手は、怪談とか都市伝説を求めているのか?」
「都市伝説といえば、この間ネットニュースで、『口裂け女が怖い』って……」
私が話しかけたとき。言葉に引き寄せられたかのように、マスクで顔を大きく隠した女性がいきなり境内に現れた。
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