完璧イケメンくんも、意外と悩みがあるらしい。(1)

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完璧イケメンくんも、意外と悩みがあるらしい。(1)

「あ、あれは、まさか……」 「口裂け女! ひいいいい、怖いいいい」  私が叫べば、口裂け女(仮)はどことなく嬉しそうに目を細めた。マスクつけてるから、表情はほとんどわからないはずなのに、あるはずのない尻尾が揺れている気がする。なんて感情表現が豊かなんだ! まさかの犬系女子! 「ようやっとその反応か」 「衣笠(きぬがさ)くん、なんで平気なの?」 「口裂け女云々の前にそもそもこの場所が……」 「だって、口裂け女だよ。いきなり出会い頭に『わたし、キレイ?』とか聞いてくるんだよ。地雷女に決まってるじゃん」 「は」  意味がわからない様子でぽかんと口を開けている衣笠くん。あれ、おかしいな。衣笠くんとなら、この怖さは共有できると思ったのに。 「衣笠くんはさ、親戚のお姉さんに『わたし、何歳に見える?』って聞かれてさ、ウザいって思ったことない? 若く見積もり過ぎても嘘くさいし、うっかり本当の年齢をこえちゃってもマズいし、ああいうのってどう答えても地獄じゃん」 「……ああ」 「それを、出会い頭の都市伝説だか妖怪だかにやられるんだよ。怖いよ。最悪だよ」 「確かに」 「しかも、ご丁寧にマスクを外して『これでも?』って念押ししてくるとか、絶対に面倒くさいタイプ。結局なんて答えても怒ってくるのは間違いない」  衣笠くんはかわいそうなものを見る目で、私を見つめてくる。 「……お前、親戚のおばさんの対応を失敗したことがあるんだな」 「大きいお姉さんよ。『おばさん』なんて、この世に存在しないの」  ちっくしょー。さすが女の子に付きまとわれているだけあって、女性の扱いには慣れてるってか。くーっ、じゃあもう口裂け女の相手も衣笠くんがやってよー。 「……そういう意味で、怖いのか。さすが、トイレのドアを叩き続けて、教頭先生に叱られただけのことはある」 「それ以外にどこに怖がる要素が……?」 「いや、名前からして口が裂けてるんだぞ。怖いだろう」 「出血多量にもならず、感染症も起こさずにうろうろできているとかさすがって感じもする。私なんか睡眠不足で口角炎になっただけでも、泣きそうなくらい辛いのに」  途中でズッコケていた口裂け女が、なんとか元気を取り戻したのか、嬉しそうな顔でマスクを外してきた。 「うわ……」 「さっきみたいにきゃーきゃー言わないんだな」 「怖いっていうか、めっちゃ痛そうで見てらんない。なんだろう、皮膚科とか眼科の待合室で、エグい症例のポスターを延々見せられている感じ。っていうか口裂け女って、口が裂けているところを見せてどうしたいの? 精神攻撃かな。もしかして、SAN値を削ってるの?」 「……お前が何を言っているのか、俺にもそろそろわからなくなってきた」 「あの口裂け女も、どうしていいかわかんなそうだね」  これから何をするべきわからず、とはいえこちらに興味津々の口裂け女は、憧れの人間に初めて出会った心優しい怪物に見えないこともない。え、ここ、そういうハートウォーミングな絵本っぽい世界観だったっけ?
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