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完璧イケメンくんも、意外と悩みがあるらしい。(2)
「もしかしたら、俺たちに共通する『恐怖』の概念がないと、具体的な行動に移れないんじゃないのか」
「言語化してくれる衣笠くん、素敵!」
「おだてなくていいから、さっさとあいつをどうにかしてくれ」
「ええええ、私任せ?」
「そもそもお前への試練なんだろ」
「そういやそうか。じゃあ口裂け女の裂けた口を閉じれば、試練は終了ってことでいいのかなあ」
でも何で閉じてあげたらいいのやら。ここにはお医者さんなんていなし……。求む、天才外科医。
「それなら、『縫う』か」
「どうやって?」
「ソーインングセットくらい持ち歩いてるだろ」
「今時、そんな女子とかいないと思うけど……」
「お前の女子力の低さにドン引きしていいか。俺が持っているからまあいい」
むしろ、なぜ君が持っているのかね、衣笠くん。イケメン御用達のアイテムとでも言うのかね。
「公共交通機関を使っていると、ボタンに髪が絡まったとか、声をかけられることがしょっちゅうあるからな。面倒くさいから、ボタンごと相手に渡している」
「普通はしょっちゅうないよ、そんなこと」
「……そうか」
イケメン御用達のアイテムでしたよ。
まじで衣笠くんって、私と同じ世界に生きているひとなのかな。顔面偏差値の違いで、ここまで世界線って変わってくるの?
「それで、まさか衣笠くんが口裂け女の口を縫うつもり?」
「ああ、そのつもりだが。そもそも本当ならお前が縫うべきなんだろうが、ソーイングセットも持っていないお前に、縫製技術があるようにも思えない」
ピンポンピンポン、衣笠くん、大正解!
家庭科の時間にフェルトでマスコット人形を作った時には、私だけ「ブードゥー人形」って言われてたよ。あんなに頑張ったのに、呪いの人形扱いとかひどくない?
「一応聞くけど、医師免許は?」
「あるわけないだろ。でも代々医者の家庭だから、教材の映像とか散々見せられてきてるし、ぬいぐるみ相手に練習とか用具の使い方の指導も受けてきているから、まあなんとかなると思う」
「……英才教育」
「羨ましいか?」
「全然」
アニメの代わりに豚の解剖動画とか、クリスマスチキンを食べている時に脚の作りの解説とか、マジで勘弁してほしい。
「まあ、それは置いといて」
「そうだな。とりあえず口裂け女をとっ捕まえて、口の両端を縫ってみるか。俺がやって脱出できなかったら、お前が縫い直せよ」
「……麻酔なしで縫合手術とか、拷問なんじゃ……」
「相手は都市伝説的な存在なんだから、まあ大丈夫だろ」
「そういうもんかなあ……。あ、口裂け女が逃げた!」
おとなしく私たちの話を聞いているように見えたのは、ただ単に私たちの計画にドン引きしていただけだったのかもしれない。彼女の逃げ足の速さに、そういえば口裂け女はめちゃくちゃ足が速いという特徴があったことをおぼろげながら思い出したけれど、その時にはすでに口裂け女の姿はどこにも見当たらなかった。
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