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完璧イケメンくんも、意外と悩みがあるらしい。(4)
「うん、そうだね。でもさ、それって衣笠くんも同じじゃない?」
「は?」
「だってさ、衣笠くんもさっき私に、『教師に恋をするなんて、馬鹿だ』って話してたじゃん」
「お前のそれと、俺の悩みを一緒にするなよ」
「変わらないよ。自分の価値観で、相手の気持ちを考えずにばっさり否定しているところなんて、そっくりだよ。女の子がうざいとか言うけどさ、愚痴を聞いてもらったりもしてるんでしょ。自分だけが迷惑しているみたいに言うのっておかしくない?」
私の言い方にかちんときたらしい。口をむすっと曲げた衣笠くんを見て、私は小さく悲鳴をあげた。
「衣笠くん、大変! 頭の後ろに大量の羽虫の群れが!」
「うげっ」
慌てて衣笠くんが頭の周りで両手をバタバタと動かしているけれど、全然離れてくれない。あるよね、こういうことって。私も時々自転車でこの虫の群れの中に突っ込んじゃうし。しかも運が悪いと口や目の中に虫が入っちゃうんだよね。思い出したら、うがいしたくなってきた。もじょもじょする。ぺっぺっ。
「なんでこんなところに蚊柱が。くそ、俺より高いものとかそこらへんにいっぱいあるだろうが!」
「蚊柱って言うんだ。なんか強そうだね」
「高みの見物しやがって」
「だって、私今、罠にくくりつけた紐を持ってるし。むしろそれを見ても動かずにいられたことを褒めてほしい」
そのあと、あちこち走り回って虫の大群を別のところに置いてこれた衣笠くんは、げっそりしつつも、さっきよりもマシな顔になっていた。
「お前の先生への気持ちを否定して悪かった。いきなり全否定されたら、誰だって腹が立つよな」
「そうだね」
「でも、普通に考えたら」
「だから、衣笠くんのお父さんも、衣笠くんに医者を勧めるんでしょ。世間一般的に見て、幸せになれる職業だから」
「……そうだよな。ごめん……」
「いいよ、別に。でもまあ、もうちょっとお父さんとか周囲の女の子とかといろんなことを話してみてほしいな。迷惑がったり、いきなり喧嘩したりせずにね」
「……努力してみる」
なんとなくいい感じにまとまったところで、「カサカサ」と音がする。四つん這いになった口裂け女がカゴの中に頭を突っ込んでいるのが見えた。
「キモい」
口裂け女、普通に怖いじゃん! 最初から四つん這いで現れたら、めっちゃ悲鳴をあげた気がする。デカいGが現れた感覚で。
「衣笠くん!」
「くっそ、俺が体を張るのかよ!」
思いっきり棒にくくりつけた紐を引っ張った私の合図で、カゴの上に衣笠くんが飛びのる。……これで口裂け女の首の骨が折れたら、傷害罪って適用されちゃうのかな。
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