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完璧イケメンくんも、意外と悩みがあるらしい。(5)
「罠にかかった! でも首から下が消えたよ!」
「マジかよ、カゴの下には何かいるぞ。外に出ようとばったんばったん体当たりしてきてる」
生首? 口裂け女の生首ですか?
我々は今まさに新しい都市伝説が生まれる現場に居合わせているのでは? すごいけど、嬉しくない。でもせっかくなら携帯で動画を撮っていたら万バズ……。
「あー!」
その瞬間私は大切なことを思い出し、悲鳴をあげた。ヤバい、ヤバい、ヤバいいいいいい!
「どうしよう、忘れてた!」
「何を?」
「ここに来たら、実際に何が起きたかを記録するために録音するって親友と約束してたの」
慌てて鞄をひっくり返し、機材の電源を入れる。
「お前、こんな時に何をやってるんだよ」
「いや、むしろこんな時だからこそ録音しなきゃでしょ」
「B級映画で最初に犠牲になる、民話とか伝説を調べにきた学生みたいな動きをするな!」
「そう思うなら、いちいち突っ込まないでよ。私はちゃんと帰るつもりだし、帰るつもりだからこそ録音しておかなきゃいけないんだから」
録音する部分ってどこなの? このまま持っていれば、ちゃんと音声入るんだよね? 使い方、レクチャーしてもらうのも忘れてたよ。
「ちなみに、録音してどうする気なんだ」
「なんかね、私の親友が放送部でさ、編集して来年のMHKのコンテストに出すって言ってたよ」
「……MHKってオカルトのコンテストでもやってるのか」
「なんか、ラジオドキュメントに出すんだって」
「絶対主催者側が求めているのって、こういう実況系動画みたいな内容じゃないと思う」
とりあえずビビりながらカゴに機械を向ける。最悪、ノイズでも録音できていたら、言い訳が立つと思っていたんだけど。
「ぎゃー! 虫、虫! 衣笠くん、なんで袖口に羽虫の大群を仕込んでるのさ!」
「知らねえよ。さっき、ちゃんとそこらへんにまいてきた!」
「うわーん、しかも羽虫がめっちゃレコーダーに吸い込まれていくんだけど、そういうことってある?」
「あるかどうか知らんが、実際に起きているんだからしかたない」
「ねえ、レコーダーって空っぽの箱じゃないのに、なんで羽虫が吸い込まれるの。やだ、壊れちゃうよおおおお」
弁償はいやだー!
ようやく羽虫の大群が見えなくなったが、その頃にはすっかり気力はなくなっていた。ありえない空間に吸い込まれていくとか、虫、怖い……。やっぱり昆虫は地球外生命体なんだ。
「衣笠くん、カゴ、開けて」
「平将門みたいに飛びかかってきたらどうするんだ!」
「いきのいい生首だねってことで」
「どうなっても知らんからな!」
もぞもぞ動くカゴをゆっくり開けてみると、そこにはもふもふころっころの小狐が1匹うずくまっていた。
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