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神さまにかかれば、ラジオも神具になるらしい(1)
「あなたが、稲荷神社の神さまなの?」
「バカ、そんなもん触るな!」
衣笠くんの声に、慌てて手を引っ込める。危ない危ない、見た目の可愛いさに危うく騙されるところだった。
「そ、そうだね、エキノコックスが本州上陸したってニュースになってたもんね!」
「は?」
ごめんね、可愛いもふもふちゃん。でも、1度でもネットでエキノコックスについて調べたら、不用意に狐にはさわれなくなると思うの。潜伏期間が長い上に、気がついたらかなり進行しているとか、肝機能障害マジで怖い。
神さまがエキノコックスにかかるかはわからないけど、わからないからこそ手を出しちゃいけないよね。
「俺が言いたかったのはそういうことじゃなくてな……」
「ごめん、まさかカゴの中に狐がいるとは思わなくて。噛まれたりしてない?」
「いやむしろ、口裂け女の生首の方が危険性が高かっただろうがよ!」
「口裂け女は噛まないでしょ?」
そこへ、柔らかな笑い声が境内に響いた。
「ほんにそなたたちは、面白いのう」
「あ、ちょっとどこに行ってたの? 心配したんだからね!」
神社に到着してすぐに見失ってしまった親友の姿に、駆け出そうとして慌てて立ち止まる。彼女は、こんなしゃべり方をしない。こんな笑い方なんてもっとしない。一瞬、放送部の撮影中かなとも思ったけれど、境内から出られず携帯も使えなくなるような特殊空間を彼らが作ったとはとても思えなかった。
「きゅいきゅい」
「あっ!」
さらにカゴの中にいたもふもふは、たたたっと彼女のそばに駆け寄った。一生懸命何かを訴えるような鳴き声が可愛らしい。
はぐれていたペットがようやっと飼い主を見つけた、そんな微笑ましい光景……と思いかけて、首を捻る。いや、なんか違うな。しばらく考えてひらめいた。
そうだ、あれだ! 喧嘩に負けたチンピラが、後から来た上のひとにいいつけている、あの感じだ。「あいつらが悪いんです。どうぞ成敗してやってくだせえ」みたいな。ちらちらこちらを見ながら鳴く姿は、言い訳をしているようにも見える。
ということは、稲荷神社なのにあの狐は神さまじゃないってことになる。衣笠くんは私の疑問に気がついたらしい。
「一応教えておくが、稲荷神社の神さまは狐じゃないからな」
「へ?」
「あくまで狐は神さまの使いだぞ。その顔を見るに、お前、やっぱりわかってなかったな」
……つまり?
狐をあやしている親友そっくりのこのひとは。
「神さま?」
「そう呼ばれることもあるかの」
えー、とうとう都市伝説どころか、自称神さままで出てきちゃいましたけど。
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