神さまにかかれば、ラジオも神具になるらしい(3)

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神さまにかかれば、ラジオも神具になるらしい(3)

「誰だ、お前えええええええええ!」  思わず突き飛ばした私は、正直悪くないと思う。何よ、その「ショック」みたいな顔は。ショックなのは、こっちの方だってばよ! 「私の先生はね、そんなエロいことで生徒を釣るような、薄い本に出てくるイケメンみたいなことしないんだからね! 確かにちょっとそういうことは興味あるかなとか、先生にご褒美もらいながら勉強したらめっちゃ成績伸びそうだなとか思うけど、私の先生は彼女をめっちゃ大切に想っているひとで、適当に女子高生をつまみ食いするようなチャラ男じゃないんだからあああああ!」  涙目で絶叫していると、教室の後ろのドアが開いた。 「やっと見つけた、おい、帰るぞ。……って、お前何を叫んでんだよ」 「衣笠くん、超ボロボロじゃん」 「なんか、ストーカーっぽい女の子集団に囲まれてさ、必死で逃げ出してきた。で、それがお前の好きなひと?」 「好きなひとの偽物」 「……酷い顔だな。泣くほど嫌なことされたのか?」 「違うよ。夢みたいに優しくて、それが逆にすごく悲しかった」 「夢なんだから、堪能すりゃよかったじゃん」 「衣笠くんさあ、本当に好きなひとができてもそう思えるか、よく考えた方がいいよ。じゃないと女嫌いをこじらせて一周回ってチャラ男になったあげく、メンヘラに刺されて死ぬよ」  目の前の先生がこちらに向かって微笑み、両腕を広げた。 「中西、おいで」  くっそ、くっそ、なんだこれ。言われたい台詞ナンバーワンをチョイスする先生とか。ああ、もう、本当にこんちくしょう。この際偽物でもいいかなとか思いたくなるくらいには、好きなんだよね、バカか私は。 「生徒を泣かせてんじゃねえよ!」  ばちこんと、衣笠くんの右手ストレートが橋口先生にクリーンヒットした。そのままばたりと先生が床に伸びる。ぎゃー、橋口先生が! 「先生、先生、しっかりして!」 「偽物に気を使うなよ」 「ごめん、偽物っていっても私の妄想の産物だと思うから。先生のなんかエロい行動は欲求不満な私のせいだと思うし、いくら偽物でも好きなひとと同じ顔が痛い目に遭うのは辛いっていうか」 「面倒なやつ。で、どうするの? お前はここに残るの?」  私のことを優しく呼んで大切なひとみたいに接してくれる橋口先生と、こんなときまでお前呼ばわりの衣笠くん。どちらを選ぶかなんて、考えるまでもない。  私は寝っ転がったままの先生のスーツのポケットに飴を詰め込み、衣笠くんの手をとった。 「先生のバーカ。彼女一筋の先生を私は好きになったんだから。拗らせ乙女、なめないでよね」
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