神さまにかかれば、ラジオも神具になるらしい(4)

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神さまにかかれば、ラジオも神具になるらしい(4)

 ぱちんと瞬きをすれば、そこは先ほどと同じ境内の中だった。さっきのは夢かなと思ったけれど、持っていたキャンディの量はごっそり減っている。夢の中の先生もどきに渡してきたのは確からしい。 「ほほほ、()()()()()()()()()()()()()()」 「いやいや、選んだっていうか、そもそも先生は偽物でしたよね? 私が好きなのは橋口先生(本物)だよ! わかってる?」 「()()()の願い、聞きいれよう。()()()()のことをこれからも見守らせてもらうぞ。これはそなたらへの餞別じゃ」 「こっちの話、聞いてないし!」  左手の薬指が一瞬あたたかくなった気がした。え、神さま、私と誰の縁を結んだ? そもそも私、縁結びのお参りはしてなくない? けれど、何度確かめてみても薬指には何もない。なんだったんだ? 「ああそれから、そいつの後始末もしておこうかね」 「後始末? あ!」  しまっておいたはずの録音機が、神さまの元に吸い寄せられていった。 「神さま、壊しちゃダメです! それ、私のものじゃないんで!」 「心配せずとも、壊さぬよ」 「本当ですね! 絶対ですよ!」  神さまがどこから小狐を取り出した。小狐が録音機に近づくと、きらきらと綺麗な光の粒子になって吸い込まれていく。羽虫といい、小狐といい、どうしてみんな録音機に吸い込まれていっちゃうの? 「何をしたんですか?」 「先ほどの小狐に、しばらく修行をさせようと思ってな。ちょうどよい()()も手に入ったからのう。浄化の練習をしながら、自身の格も上げてくるであろうよ」 「この録音機の中で?」 「まさか。とうに時を繋げて、あちら側に送っておる」 「あちら側?」  時を繋げるって、どこに繋がるんだろう。 「もしかしたらだけど。過去に送ったのかもな」 「過去?」 「今の時代よりも、もっと昔の方が信心深いひとが多いから、修行はしやすいかもしれない」 「でも録音機に入ったんだよ。音声データで、どこまで遡れるの?」  数十年遡ったくらいで、神さまへの接し方って変わってくるのかなあ。 「その昔、ラジオ放送が始まったばかりの日本では、『マイクに息を吐くと、寿命が吸い取られて早死にする』と言われていたらしいよ」 「それって、いつの時代?」 「ラジオ放送が始まったのが1925年つまり大正14年」 「昭和より前からラジオってあったんだね!」 「お前みたいに、花子さんや口裂け女を追い詰めるような人間はいないだろうからな。力も蓄えられるんじゃないのか」 「最終的に私のせいなの?」  いつの間にか神社の向こう側は普通の住宅街に戻っていた。神さまもすでに消えている。空は茜色から藍色に変わりかけてはいるけれど、そう長い時間は経っていないらしい。先ほどの場所とこの現実世界では、少し時の流れ方が違うのかもしれない。 「じゃあ、またね!」 「おい、連絡先くらい教えろ。何かあったら困るだろ」 「何かって何?」 「だから左手の……なんでもない」 「ごめーん、今電源切れちゃってるからさ、良かったら携帯の電話番号でLIME登録してくれない?」 「わかった」 「じゃあ、申請よろしくね!」  境内から一歩足を踏み出し、振り返るともうそこに彼の姿は見当たらなかった。
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