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彼女は、俺と彼の関係にまだ気付かないらしい。(2)
「おやおや、また黒ずんでおるの」
「放っておいてください」
とっさに隠そうとした左手を、信じられない力で捕まれる。女子高生をかたどった細腕から万力のような握力が出てくるのだから手に負えない。
窓から差し込む夕焼けを、薬指におさまった小さな輪が反射する。
俺と彼女を見守ると約束した神さまは、俺たちの左手の薬指にご神環をつけた。つけたばかりのときには透明でほとんど見えない指輪。妬み、嫉みなど、負の感情を貯めれば貯めるほど黒ずんでいく。まるでこちらのよどみを面白がるように。
未来の俺とは知らず、彼女が想いを寄せる先生を憎んだ過去の俺。
過去の俺と知っていても、当たり前の顔をして隣にいる自分を憎む今の俺。
どちらもがんじがらめで、それでもなお無意味な嫉妬をやめられない。
「そなたの中にあったアレを、羽虫として取り出せたのはほんに幸運であった。あの娘がおって、よかったのう。そうでなければ、アレに取り込まれて鬼となっていたであろうよ」
「そう、ですね」
彼女がいなければ、俺は神社から出られず神隠しとして行方不明となっていただろう。あるいは元の場所に戻れたところで、歪んだ願いを叶えた人間がまともに生きられるとは思えない。彼女には感謝している。
だからこそ思うのだ。こんな自分が、彼女を愛しても許されるのだろうかと。
「難しく考えずともよい。あの女子は、軽過ぎるのじゃ。このままではふわふわと何も考えずに、笑いながら天へと還ってしまう。そなたのように、重くて、面倒くさい、邪魔にしかならぬ錘のような業の深い男がいるくらいでちょうどよい」
「無茶苦茶な言い分ですね」
「だからこそ、ゆめゆめあの娘を裏切るでないぞ」
口ではそう言いながら、裏切りを期待するかのように紅い唇をにやりと歪ませる。本当に神さまというのは、性格が悪い。
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