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彼女は、俺と彼の関係にまだ気付かないらしい。(3)
「裏切るつもりはありません」
「そうじゃの、どのみち裏切れぬ。裏切るより先に薬指と魔羅が腐り落ちてしまうでの」
涼やかな笑い声が、教室の中をこだまする。
登録しても繋がらなかった電話番号。
探しても見つからなかった同じデザインの制服。
俺がどれだけショックだったか、彼女にはわからないだろう。高校を卒業した後も諦めきれず、散々探したのに。
大学在学中に、名字が変わってまさかと思った。もちろんこんなことがなければ、医師免許ではなく教員免許を取得することはなかっただろうが。
さらに教育実習で母校に足を踏み入れた際に、近くの高校の制服のデザインが一新されたと教えられたときの衝撃ときたら。
あの頃、俺は見知らぬ数学教師に嫉妬していた。今の俺は、過去の自分に嫉妬している。俺にとってはもうすでに通りすぎてしまった中西との青春を、これから中西は体験することになるからだ。過去の俺と一緒に。
中西、お前は俺を入学以来ずっと追いかけていると言ったが、俺の方こそお前を探し続けてきたんだ。少しはおあずけされる気持ちを味わってみろ。
「それでおあずけにあうのは、結局そなたの方ではないかえ?」
「卒業までの辛抱ですので」
「18で成人とはいえ、高校卒業後にすぐ結婚しては、娘も叩かれるであろうの」
「大学卒業……まだ5年以上先か……」
「まったく、童貞を拗らせると面倒なことになるの」
本当にその通りだ。スーツのポケットにぱんぱんに詰められた飴をいくつか取り出す。
「……おひとつどうぞ」
「ならば、もらうとするかの」
口の中に放り込んだ飴は、ねっとりと甘い。いつか味わう中西の甘さを思い浮かべながら、俺はこの夏を追いかけていく。
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