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私の好きなひとには、大切な女性がいるらしい。(3)
「学校裏の稲荷神社の噂って、結局どういうのなの?」
「簡単な話よ。稲荷神社で願掛けを行うと、その願いが叶うらしいの」
「本当に?」
「ちょっと調べてみたんだけどね。願いが叶ったってひとの話は聞くことができたわ。でも詳細は聞けなくてね」
「全然信用できない!」
私はクリームパンをもしゃもしゃ食べながら、親友の話にケチをつける。
「なんでよ」
「じゃあ、恋人がいるひとと両思いになることを願ったら、相手はどうなるの? あるいは、何人かが同時に願掛けしたら? 現代日本で、ハーレムはちょっと受け入れがたいっていうか……。だいたい、いつどこでどんな風にとか手順が指定されていないと、『願掛け』の範囲がわからないじゃん。初詣なんてみんなざっくり全部願掛けだよ。丑の刻参りみたいにとは言わないけれど、手順特化、範囲は恨み限定とかの方がわかりやすい気がするんだよね」
「あんた、こういうことはよく気がつくのね。論理的思考ができるなら、どうして数学が毎回赤点になるのかしら?」
「関数も数列も場合分けを要求してくるほうが悪い」
「やれやれ」
ぐぎぎぎ。確かに橋口先生にも、「頑張っていることはよくわかるんだが。そもそも中西には数学的センスがない」って言われたけれど! なんか先生以外に言われると妙にしゃくにさわる~。
「作法が気になるなら、スーパーかどっかで『いなり寿司』とか『油揚げ』を買って行ったら?」
「稲荷神社だからって、安直じゃない?」
「嫌なら聞かないで」
「きゃー、ごめんって。しっかり買って持っていきます。成功確率を上げる要素があるのなら、少しでもどうにかしておきたいし」
うっかり買い忘れたりしないように、手の甲に油性マジックででかでかと「いなり寿司」「油揚げ」と買いておいた。学校が終わるまでの間にいろんなひとに指摘されるかもしれないけれど、リマインドになってちょうどいいはず。
「で、結局行くの、行かないの?」
「学校が終わったら、そのまま行ってくるよ。ちゃんと辿り着けるのか、まずそこが心配だけど」
「あれだけ渋っていたわりに、ちゃんと行くのね」
「いや、行かないとめっちゃ圧力かけてくるじゃん!」
「当然でしょ。一度した約束はちゃんと守らないと。ひまりはもともと、お尻に火がつかないと動けないタイプでしょう。夏休みの宿題とか、『やらなきゃ、やらなきゃ』って言いながら、最終日を迎えるタイプじゃない。でも今日行くというひまりの心意気に免じて、私が神社までは案内してあげる」
親友の評価が辛辣すぎる。私たちってさ、親友だよね?き、聞けない。怖くて聞けない。せっかく案内してくれるって言ってくれてるし、機嫌は損ねないでおこう。
「それにしても今日の放課後ねえ……。ああさっき橋口先生、例の彼女に出会ったのは夕方の神社って言ってたものね。その記憶力、もう少し数学に活かせたらよかったでしょうに」
「放っておいてくれる?」
残念、握りつぶすべきクリームパンはすべて私のお腹の中だ。仕方がないので飲み終わったカフェオレの紙パックをぎゅうぎゅうにつぶしてやった。
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