噂の稲荷神社には、神さまの試練があるらしい。(2)

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噂の稲荷神社には、神さまの試練があるらしい。(2)

 それで親友を追いかけて歩いてきたはずなんだけど。どうも様子がおかしい。数メートル先を歩いているはずなのに、どうやっても追いつけない。怒って私を置いていっているというわけでもないようだ。  それというのも、途中のコンビニでいなり寿司と油揚げを買っている間も一応待っていてくれたからだ。だったら一緒にコンビニに入ってくれたら良かったのに。連れていってくれるお礼に、ジュースくらいおごったよ? 一応、ふたりで食べられるようなお菓子は買ってきたけど、どのタイミングで渡すべきかなあ。  カバンとコンビニの商品を持って必死に彼女の後ろを追いかける。そうして気がつけば、見たことのない神社が目の前にあった。な、なんだ、ちゃんと連れてきてくれたんじゃん。 「もう、怒ってないならどうしてそんなに急いで来たのさ!」  ……返事はない。ただのしかばねのようだ。  じゃなくって、薄暗い境内には私以外誰の気配もなかった。え、嘘でしょここ突き当たりだよ? 境内を突っ切ればまた別の道に繋がっているのかもしれないけれど……。  ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()――  先生の言葉を思い出し、一瞬だけどきりとする。いやいや、大丈夫でしょ。だってまだ夜じゃないし。まだぎりぎり夕方だし。でもまあ、お化けとか関係なく、あんまり遅くまでうろうろせずに帰ろう。足が痒すぎる。すでにこの神社に来てから、数ヶ所蚊に刺されている。これがO型女子の宿命か。  気を取り直して、お参りすべくお賽銭箱の前に立った。  ご縁がありますようにだから5円?  いや、やっぱり5円がダブルでありますようにってことで、55円?  それとも、穴が開いているお金はよくないって聞いたしじゃあ100円?  いっそ、奮発して500円にする? 「ひとりで間抜け面して、何やってんの」 「ひゃあわうわううぃあ」  びっくりし過ぎて、財布の中身をひっくり返しそうになった。危ない危ない。振り向くと、しらっとした目で男子高生がわたしを見ていた。 「あ、ナンパはお断りだから」 「だれが、ナンパするか!」 「俺がここに来るのを知っていて、先回りしてきたんじゃないのか」 「なんなの、この自意識過剰男」  あの制服は、ここら辺でも有名な男子高のものだ。頭良し、家柄良しのはず。大体通うのは、医者の息子さんとかじゃなかったっけ? しかも顔までいいってか。けっ、このエリートめ! ま、性格はそのぶんひねくれてそうだったけどね! あなたみたいなやつは、イケメンでもお断り。私には、大好きな橋口先生がいるんだから! 「じゃあなんで、さっきからうだうだ時間かかってるの。やっぱり俺を待ちぶせしていたんじゃ……」 「違うし。お賽銭、いくらにしようか迷ってただけだし!」 「そこは財布の中身を全部突っ込んだら?」 「出たよ、この金銭感覚の違い!」 「わざわざ()()()()()()にお参りに来てるんだから必死なのかと思ったら、そうでもないのか。お賽銭は悩むくせに、コンビニで買い食いはできるとかそっちの方が意味わかんねえし」 「これはお稲荷さんへのお供えもの!」 「中に色々入ってるだろ」 「うるさいなあ」  それは親友と一緒に食べようと思って買ったの。放っておいて。  だめだ、こいつといるとペースが崩れるわ。さっさとお参りを済ませよう。
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